ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
溢れ出た涙
唐突に、彼女は自分の右腕を抱きしめた。


「お、おい……」


「なんで……?!」


彼女の表情は、自分の腕に隠れて見えない。


……いやそもそも、辺りもすっかり薄暗くなっていたけれども。


昨日、屋上で。


こんなことになって、こんな話をするなんて、全然考えられなかった。


「なんで……そんなに我慢しちゃう訳……?

悲しくない訳ないでしょ、なんで、かっこ悪いから?」


彼女は既に涙声だ。


悲しいからって泣きたい時に泣けるっていいなあ、くらいにしか思っていなかったけど……彼女からしたら、泣けない自分が不憫らしい。


「……それだけじゃねえ」


「……意地?」


「……それも、違うとは言わねえけど。

……泣いて、しまいたくねえから……」


言葉にしたら、泣けてくる。


歯ぁ食いしばってみた。


なんとか誤魔化せた。


彼女は腕から離れて、まじまじと自分の顔を見た。


もう、隠す気はないから言ってみた。


「……あんまり見んなよ、ボロがばれるだろ」


そうしたら。


彼女が大きくため息をついてから言った言葉は、ズバッと真ん中を突いてきた。


「……そんなに背負いこまなくても。

シンラのせい……とかそういう問題でもないでしょ。

そこまで遡って考えなくても、いいんじゃないの?」


「……」


「誰よりも後悔してるけど、後悔したくないって思う自分自身、それが嫌なんでしょ……でも、それってそんなに自分を責める程、悪いこと?」


……顔が一気に赤くなった。


まさか自分が抱えていたモヤモヤを、そんなストレートに言いあてられてしまうとは。


「……っ」


どうやってぶつけていいんだか分からない思いは、言葉にはならなかった。


熱い思いは、熱い涙になって溢れ出た。


「……悲しいから泣く、それでいいじゃない。

涙の理由なんて、それだけで……」


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