ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
……泣きたかったのに、泣けなかった。


最初はリンの手前だったからだ。


泣きじゃくる義妹につられて義兄も一緒に泣いてたら、リンも余計に悲しくなるだろう。


ただでさえ、一人にして心配かけた後だ。


リンは泣くだけ泣いて、泣きやんだと思ったら眠いと言い出した。


自分が寝かされていた簡易ベッドを譲ると、あっという間に寝付いてしまった。


イサキのおばさんいわく、泣き疲れだとか。


おばさん達が、あれやこれやと干渉してこなかったのはありがたかった。


しばらく一人にして欲しい、リンが起きる頃にはまた戻るから、と我が儘を言って一人にさせてもらった。


……胸の奥を、このモヤモヤした思いを整理……したいんだかしたくないんだか。


分からなかった。


整理してしまう、ということは乗り越える……過去にしてしまう、思い出として胸にしまうこと、だから。


気がつけば、屋上に来ていた。


彼女なら、来てくれると思った。


聞いてくれると思った。


この、泣くに泣けない現状をなんとかしてくれると思った。


……泣いて、しまいたくない……自分ではうまく言葉に出来なかったのに、彼女に言われてようやくこのモヤモヤの正体が分かった。


泣けない、と思ったのは……後悔していると認めたくないから。


自分は自分の選んだ道を、戦師として生きていく道を、誇りに思っているから。


でもその道こそが、自分達親子を引き裂いたことは、間違いないだろう。


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