ウェスター国戦師(いくさし)の書。2~優しい後悔~
イサキの実家のパン屋は、結構流行っているので昼前には割とお客さんが入る。


なので、昼前ラッシュより早くに着くのがベストだ。


さらに、土産だ。


何を買うか悩んで、悩みに悩んで、……いやいやただパンを買いに行くだけのシチュエーションなのに、でっかい土産ぶらさげてるのも何か違うだろう、と。


果物の詰め合わせかなんかにしたかったんだけど、そうするとどうしてもかさばるから、ここはひとつ無難に穏便に。


商品券にしよう、と決めた。


何が喜ばれるのか分からないのだから、仕方ないだろう。


……以上2点考慮して、イサキんち最寄りの百貨店の開館10時だから、9時頃に城を出たら十分だ。


10時半から11時前にはイサキんちに着ける。


……いろいろと悶々と考えようが、何をしていようが、時間は来る。


心づもりは出来たものの、第一声はなんて言おうか、なんて呼んだらいいか、その他もろもろまだしっかり決まってないうちに、出発時間の9時になってしまった。


書類の判子押しの合間をぬってケイゾウがを見送ってくれた。


「レーズンロール、期待してるぞ~!」


……そっちかい!


ケイゾウの声を背中で受けながら、思わずずっこけた。


いそいそと商品券を買い、包装してもらう際。


のしの代わりに何かメッセージくらい書くか、と思いついた。


店員が渡してくれたカードに、たいして考えずに思ったままをスラスラと書いた。


……この文、モモには見られたくないな。


そう思った。


『たまにはゆっくりくつろいで、これで好きなものでも買って下さい。』


あの母親のことだ、絶対毎日無理してるに決まってる。


『まーたぁ。

やっぱ常にお母さんのこと、考えてんじゃない』


とかなんとか……あいつの声が耳の奥で聞こえた気さえした。


……そして、ようやくたどり着く。


見知ったイサキんちのパン屋が(なんべんか遊びに寄せてもらったことがあるからだ)、なんだか違うものに感じられる。


大きく深呼吸をしてから、ドアに手をかけ、店内に入った。


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