離婚、しませんか?


******


そして現在、午後九時過ぎ。
予定通りに夫が帰宅した。


ーーーしたんだけれど、ちょっとした手違いが勃発中。


「……え?」

目の前には、鳩が豆鉄砲を食らったよう……とはこのことか、ってくらいにキョトリとした夫の顔。

「だから。離婚、しましょうって言ったの」
「………………。はぁ……?」

なんだろ。この可愛らしい生き物は。
せっかくビシッと固めた決意もとろとろんと溶けて消え失せそうになるこの破壊力は。

超絶美形のその顔が今、だらしなく呆けているというのに。
軽く見開いたまま固まった琥珀の瞳も、ぽかりと開いた潤いたっぷりの男子にあるまじきぷるんと艶やかな桜色の唇も。
呆けたままのその顔は、普通なら少々マヌケに見えるのに。
くうううっ……。

稀少生物だ!
マヌケ顔すらその美貌を見劣りさせることなく寧ろ母性本能擽る的な付加価値を高めてしまうとは。
ダメだ、これ以上見るな見惚れるな!

たとえ、常ならばフサフサ睫毛に縁取られた切れ長の猫目に抗いようのない色香を滲ませたうっとりするほどの美貌の持ち主が今、生まれたての雛鳥のように戸惑いつつ私を見下ろしているその姿にキュン死しそうになろうとも。

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