離婚、しませんか?
読み終えた私の前にただ静かに佇む夫を見上げ、なにか声を掛けようとしてみたけれど上手く言葉にはできなくて。
俯いた途端みるみる霞む視界で、目の前の文字がぼやけてゆく。

「っ……ふっ、……っ」

やがて堪え切れない雫が両目から零れ落ちたその時、ふいに柔らかな感触が両の眦に順に押しつけられる。

驚いて顔を上げた私の前には、しゃがみ込んだ夫の美麗な顔があった。

「ひか、るさ……っ」

涙の軌跡を辿りながら羽のように優しく両頬を滑る夫の唇が再び目元に触れて、濡れた睫毛を柔く吸われる心地良さに思わずふるりと震えてしまう。
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