*Only Princess*
「……じゃ、伝えたいことは伝えたから、あたしはこれで……」
くるっと身を翻し、屋上の扉へ向かっていく菜生。
その小さな後ろ姿を見て、俺は思わず名前を呼んだ。
「菜生」
振り返らなかったが、立ち止まってくれた。
何か言わなきゃいけない。
今、俺は何を言えばいいんだろう。
考えて、思い浮かんだのはひとつだけ。
「菜生。俺は、菜生が本当に白鷹から抜けたいと思ってるんなら、無理に引き止めない」
「おいっ、何言って……」
真幸が口を挟んできたけど、俺は構わず言葉を続けた。
「でも……菜生が白鷹から抜けることを、認めたわけじゃない。そんなの、誰も望んでないからな。
戻ってきたいとき、俺らの傍にいたいとき、いつでも戻ってこい」
「てった……」
「でも油断するなよ? 俺らは、全力で菜生を取り戻すからな。白鷹の姫は、菜生だけだろ?」
伝え終わった瞬間、菜生は逃げるように屋上を去っていってしまった。
少し、振り返ってくれることを期待してたが……そうはいかなかったな。
でも……届いたか? 俺の、みんなの思い。
届いてるだろ?
どう思ってどう動くのかはわからないけど、菜生を信じるしかない。