*Only Princess*
そんな生活を続けて中2の夏。
せわしく鳴くセミの声で耳鳴りしそうな日のこと。
「ただいまー……母さん? 母さんっ!!」
いつも通り学校から帰ってきた俺は、家で倒れている母さんを見つけた。
急いで救急車を呼んで病院に運ばれたけど、もう手遅れだった。
母さんは過労が原因で亡くなった。
涙は出てこなかった。
ただただ、心が空っぽになったような虚しさだけが残った。
お葬式は身内だけで行った。
なぜか、そこには父さんもいた。
平然とそこにいる父さんに対する怒りが、ふつふつと湧き上がってきた。
こいつのせいだ。
母さんはこいつが殺したようなもんなんだ。
俺は父さんに駆け寄り、バコッと殴った。
「てめぇのせいだろっ……てめぇのせいで、母さんは死んだんだ!」
何回も何回も、父さんが俺たちにしてきたみたいに殴った。
周りの止める声が聞こえても、俺はひたすら殴った。
仕返しの何倍も、強く。
我を失っていた。
だけど……父さんの目から涙がこぼれ落ちるのが見えて、俺は我に返った。
……なんでこんなやつを殴ってたんだろう。
もう関わることすらしたくない。
そう思って気絶寸前の父さんからゆっくりと離れた。