シグナル
この時青木は、
安藤同様昔の事を思い出していた。
青木刑事には警察官を目指していた、
六歳年上の兄がいたのだが、
その兄は憧れの警察官になり、
もうじき一年が経とうとする頃、
命を落としていた。
当時交番勤務に就いていた兄は、
警邏中に偶然にも、
手配中の強盗犯と遭遇してしまったのだ。
青木の兄は応援を呼んだのだが、
応援が到着する間もなく、
犯人に気付かれた兄は、
犯人と格闘中に殉職してしまった。
青木はその兄の意志を継ぎ、
娘を心配する両親の反対を押し切る形で警察官となったのだが、
その兄というのが加害少年と同じ、
『タケヒコ』
という名前であったため、
他人事とは思えなかった。
親切に教えてくれた青木に対し、
もう一度今度は、
無言のまま頭を下げる武雄、
その目には再び涙が浮かんでいた。
その後武雄は、
静かにその場を去っていく。