あの夏のカサブランカ
あの夏のカサブランカ
俺「今年もまた暑い夏になりそうだなあ」
B「まあ、ビールが旨けりゃいいけどね!」
A「お前、そればっかやん!あーあ、家族サービスで伊豆に行くの面倒や」
D「いいじゃん、うちは休みあわねーから旅行もなしよ」
B「そういえばさ、去年夏に大島行ったのよ、昔お前らと間違えて大島上陸しよったやん?」
D「あはは、ありゃひどかったよな、ベロベロで訳わかんないまま、着いたら大島だったしよ」
A「あの宿の可愛い子どうなったんかなあ~」
俺「どうよ、昔と変わってた?もう何十年かね?俺ら高校1年の夏休みだもんな」

そろそろ梅雨に入る6月の蒸し暑い夜、久しぶりに酒を酌み交わし、互いの状況など話ていた高校時代の4人
揃えばいつも懐かしい昔話に華が咲くってもんよね、Bの大島に家族で行った話から、俺ら16の夏休みの思い出話が
始まった。そう、あれはもう36年も前の事、当時俺はプロカメラマンを目指し単身上京、専門の養成所で勉強しながら、
神宮前の都立高校に通っていた。同じような境遇の連中が多かったため、すぐに仲良く
なったのが、神戸から上京、田園調布に姉と住み、フォークシンガーを目指してるA、横浜育ちのお坊ちゃんで役者志望のB、
地元が渋谷で兄弟で雑誌のモデル活動をしてたD、そして俺の4人組ね。

ヒマさえあれば4人で高校の前にあった東京ボーリングセンターでビリヤード、渋谷のDiscoに行ったり
単車で海に行ったりと、遊んでいた。そうは言っても、みなレッスン、やれオーディション、発表会やらで
滅多に遊んでられんかったけどね

期末試験も終わり夏休み、俺は学校や家から近い竹下通りのレディースシューズショップでバイトを始め
朝から夜まで働いてたよ、みなと違って1人でアパート暮らし、親の援助はあったけど、裕福ではないんで稼がないとね
特に夏休みは地方からドっと若者が原宿に集まるから、特に土日は休めなかった

そんなある日、バイトから帰って3日分の作り置きのカレーを食べていると、確かBだったな、TELが掛かってきた
B「お前さあ、今度の金曜から海に行かない?A、DとEも行く予定だったけど、Eが行けなくなったんだよ」
俺「金は休みだからいいよ、江の島とか?」
B「バカ、夏のバカンスって言えば、今流行りの新島しでしょうに!すげーらしいよ、女グループも初体験しようと
大勢来るんだってさ、先輩の知り合いが新島で宿やってるからって話が来たんだよ。」
俺「新島?泊りかよ、多分無理だな~バイト休めないし」
B「お前さあ~こんなチャンス逃すのかよ!可愛いギャルがわんさか待ってるのによー、まあ俺ら体験して来るからよ
もし気が変わったら早く教えろよな」

確かに当時TVでもやってた新島や式根島など若者が多く集まり、ナンパ合戦みたく、かなりすごい事になってるとは
聞いていた。うーん、当時養成所や学校、バイトで忙しく、彼女などいるわけもなく、行きたい気持ちは強かった
あとは、どういうウソをついてバイトを休みかだ、真黒に日焼けして具合悪いもないもんだし
そんな思いを抱き、俺は翌日ほぼ完璧なウソでバイトを休めるようになり、すぐにBに電話した

出発は木曜の夜11時過ぎ、浜松町から竹橋桟橋まで歩き、最終便の東海汽船に乗り込む4人
ほとんど高校生だったよね、中には中学生っぽいにもいたし。男女3,4人グループだらけ
1番安い3等チケットは雑魚寝の広い部屋、Dが持ってきた今は懐かしいウィスキーOldを回し飲み
当時流行っていたレイバンのサングラスをかけて、オフショアのサーフシャツ、デッキシューズを履き
ラジカセをかついでデッキに出て、寺尾聡の「出航」をかけてさ、その時初めてタバコを吸ったのを覚えてるよ

さて、船でナンパって事になり、ジャンケンでA、Dが声を掛けるが中々上手く行かない
今度はBと俺でって事になったが、俺なんてナンパした事ねーし、何て言ったらいいかわからん
ところがさ、Bが上手いのなんの!だって役者志望だよ、ビックリしたよね
女の子4人でアイス食べてる所に入って行き、すぐに仲良くなっちゃってさ、3時くらいまで
みんなで酒飲んで大騒ぎよ!少し寝ようって事になり、女の子らは2等のよい部屋なんで、また朝ね~なんて戻って行ってね
俺ら雑魚寝よ、でもキープしたんで明日は楽しみだな!なんて楽観してさ(笑)いつも間にか酔っぱらって寝ちゃったよ

さて朝になり、船内放送で起きたよね~酒で頭が痛くてさ、みんなグロッキー!よく聞いてなかったんだね
そしたらBが芝居気だして作戦立てたんだよ
「1番咲先にダッシュで降りてさ、桟橋の陰に隠れて彼女らを驚かせよう」
言われるままに、船が桟橋に着いた途端みんなダッシュで降りたよ、走ったら具合悪くなってさ
みんな隠れて驚かせるどころか、桟橋の陰で座りこんじゃったよ。Aなんて吐きそうでさ
だから周りを見てなかったんだよね、なんか降りる人少ないなあ程度にしか思わなかった
15分くらいかな?船が次の島に向かって出て行った、桟橋を見回しても彼女たちいないわけ
B「あれ?どう言う事?」
D「おい、どうなってる?つーかここ本当に新島か?降りる人って俺らと2組、しかも家族連れしかいないじゃん」
みんなそこで真っ青になったよね、Aが近くに見えた案内所に行って聞いたんだよ
戻ったAから出た言葉に俺らは呆気にとられたよ
D「おい、ここって大島みたいだぞ!どうすんだよ、新島なんてここからまだ3時間も先立ってさあ
後便が午後に1つあるけど調べたら、もう満席で行けないみたいだぞ」
あまりのショックと2日酔いでマジ具合悪くその場に崩れた4人、すると魚をかついだおばさんが通りかかり
どうしたの?と話しかけてきた。簡単に説明すると
「なら家へきななさい、民宿やってるから。荷物は預かってあげるし、今からすぐにおいで」と言ってくれた
俺らはホっとしておばさんの民宿に行き、荷物を預けてまずは海に出よう!
着替えて早速近くの食堂でメシ食べ、佐野浜という近くの海水浴場に向かった。

まだ昼前とはいえ、かなりの人出かと思いきや、砂浜にはポツリ、ポツリと家族ずれや、カップルが
女の子グループなんて1つもいやしない。
A「なんや、伊豆7島ってどこもナンパ島やなうんか?家族連ればっかやん」
D「どうするよ、他の砂浜も行ってみる?」
2,3か所回ったがどこも一緒、仕方ないんでとりあえずパラソル立てて、砂浜で遊ぶことにした
午後になり、二日酔い&寝不足の俺はグロッキー、先に宿に帰ってバタンキュー
3人はレンタルサイクルで女の子がいそうな場所探しに出かけたが、いい事なかったらしく
夕方帰ってくるなり超不機嫌
シャワーして広間で夕食、するとサーファーカットにマリンルックの可愛い女性が!
F「おまたせ~沢山食べてね!今日は大変だったみたいだね」
B「あ、どうも!えーと」
「私はここの娘よ~Fって言うの、高2だから同じくらいでしょ?」
F「あ、1つ下です、俺ら高1だから」
Fちゃんは1つ上で島の高校2年、家の手伝いをしながら趣味でサーフィンやったりしてる
ちょいヤンキーっぽい女の子だった。黒かったけど、背も高くキツい顔立ちだったな
みんなやっと笑顔になり、明日はFちゃんの友人誘ってもらい海で遊ぼうって話しになった

部屋に戻ってみなバタンキュー、みんなチャリで島1周、二日酔いもあって10時過ぎには寝ちゃったよ
夕方寝たんで俺は元気、ヒマだからジュースでも買いにと宿を出ると、Fちゃんが犬の散歩から戻った所だった
俺「おかえりなさい、みんな寝ちゃったんで散歩がてらジュース買ってきます」
F「そうなんだ、あ、じゃあ私も一緒に行くよ、ちょっと待ってて」
思ってもみなかったよね、Fちゃんと砂浜を散歩、波打ち際でジュースを飲みながら、いろんな話をした
ぶっちゃけ新島に体験しに行くつもりだった話もするとFちゃん大笑い
F「あはは、そんで大島に間違えて降りたって笑える!(笑)Cくんはまだなの?」
俺「うん、Fちゃんは可愛いからモテるだろうし、もう経験済みだよね?」
F「へーんだ!内緒」
Fちゃんは、あっかんべーしながら俺のほっぺたに軽くKissをしてきた
前にKissは経験あるけど、ドキっとしたよね、オドオドしていると
F「ね!部屋で飲もうよ、ビールあるからさあ」
Fちゃんは俺の手を引っ張り、言われるままに彼女の部屋に行く
籐家具でエスニックな雰囲気、ヤシの木の置物、トロピカルなポスター
缶ビール片手に何気に俺の肩にもたれるFちゃん
言葉もなく彼女からKissを…最初は軽く、そして深く
俺はもう心臓が飛び出しそうな気分、抑えられないこの衝撃を全身で感じる
彼女から漂うムスクの香り、黒く焼けた素肌に蕩ける俺
自分のモノが熱く包み込まれた瞬間の衝撃
後は何が何だかわからないまま、精一杯の知識で彼女を抱いた
俺の腕の中で可愛くほほ笑むFちゃん、窓からは波の音が大きく聞こえる
彼女は枕元のタバコに火を付け、ラジカセのスイッチを入れると聞こえてきたのは
バーディーヒギンス「カサブランカ」
俺はFちゃんが眠りにつくまで彼女の髪をなでながら、この時間をかみしめていた

朝みんなで広間に行くとFちゃんではなくおばちゃんが朝食を運んできた
B「あれ?Fちゃんは?」
おばさん「学校に行ってるよ、部活だって!夕方戻るんじゃない?」
D「えー友達誘って海で遊ぶって言ってたのに」
おばさん「あーあの子いい加減だから、悪いね」

みんなガッカリ、悲しい食卓、ならいても仕方ないから東京に帰ろうって話になってさ
お昼に宿を出て2時の船で帰ったよ。

アパートに帰って荷物の整理していると、カバンのポケットから1枚のカード、そこにはこう書いてあった
「いつか貴方の写真が載ってる雑誌を見ることができるかな?きっとプロのカメラマンになってね」
ちょっぴり切ない気持ちと嬉し気持ちが込み上げたっけ。
俺もFちゃんが寝て部屋を出る時、自分の電話番号を書いて枕元に置いてきた
けどその後結局彼女から連絡はなかった…

あの出来事は、俺とFちゃんだけの秘密、一緒に行った他の3人も知らない
自分の思い出の1ページとして心の中にしまってある出来事

今夜久しぶりに仲間とあの時の話が出て、Fちゃんを思い出した
今何をしているのかな?俺は大島はあの時以来行ってない
でも彼女はきっと見てくれたはず
その後俺はかなり多くの雑誌社に掲載されてたからね

仲間と別れ蒸し暑い部屋に帰ってきた
シャワーを浴びて冷たいビール
PCのスイッチを入れ、RADIOを付けてみると
いつものDJがリクエストを読んでいた
「えー次のリクエストは東京都大島町にお住まいの53歳Fさん!私が高校生の時大好きだった曲です!夏に出会った彼と1度だけの体験、
でも彼は東京でカメラマン志望、恋はしないほうがよいと諦めたちょっぴり切ない思い出の曲です!ってことですね」
え? 唖然としていると流れてきたのは、バーディーヒギンスのカサブランカ
俺は窓際に立ち、缶ビールを片手にカサブランカに酔い浸った、いつまでも…



















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