一途な御曹司は、ウブなお見合い相手を新妻にしたい
「みんなお父さんの元気な姿見て安心していたね。もう今日は心配でみんな仕事に身が入っていなかったんだよ?」

みんなが帰ってしまうと、あれほど騒がしかった病室内はびっくりするほど静まり返ってしまった。

「そうか。……本当、心配かけてしまったな。みんなにも、なにより美弥に」


お父さんの洗濯物をバッグに詰めていると急に言われ、手が止まってしまった

「もう、本当だよ。倒れちゃったときはどんなに心配したか」

頬を膨らませて抗議すると、お父さんは眉を下げ「すまん」と謝った。

洗濯物を全部バッグに詰め、ベッド脇にあるパイプ椅子に腰かけた。


「お父さんもいい歳なんだから、自分の身体大切にしてね。……お母さんのところにいっちゃったらどうしようって怖くなっちゃったよ」

「美弥……」


お父さんにはまだまだそばにいて欲しい。なによりお母さんが亡くなった後、男手ひとつで育ててくれたお父さんに、親孝行なことなにもできていないんだから。

「さてと、そろそろ帰ろうかな」

立ち上がったとき、お父さんが神妙な面持ちで「ちょっといいか?」と声を掛けてきた。
< 304 / 334 >

この作品をシェア

pagetop