あの日を
レジのおばさんが変な顔をするのも当たり前だ。
毎日、同じものを買いにやって来て、毎日ムスッとした顔で私が帰っていくからだ。
冷蔵庫の中に溜まったお肉や野菜。
戸棚に溜まったパン粉やケチャップもそう。
毎日同じ買い物を繰り返すからだ。
電話が繋がらないのも当たり前だ。
彼はこの世に存在しないのだから。
『……あんた本当に実家に帰ってくる気はないの?どうせ、また明日も同じことを繰り返すんでしょう?もう、狂ってしまってるのよ。一度帰ってくれば良いじゃない。ねぇ──』
プツッ……。
反射的に電話を切る。
そして、目の前ですっかり冷めてしまった二人分の料理を口に入れる。
味なんて全く分からないけど、ひたすら口に入れ込む。
その間も涙は溢れて止まらなかった。
そして、ハンバーグを作った証拠を消すようにして、洗い物をきちんと済ませる。
毎日同じことを繰り返していれば、彼に会えるのではないかと思って……彼が自ら命を絶った理由が分かるのではないかと思って……私はあの日を繰り返す。
そうでもしないと、気持ちが押し潰されてしまいそうだ。
静かに布団に入ると、彼が寝転ぶスペースを開けて私はそっと目を閉じた。
「おやすみなさい。」
(一行目に戻る。)
