国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
知らされていないアローラは、王家の結婚にルチアの存在は波乱を巻き起こすのではないかと懸念していた。

 
ガウンの前を結んでいると、ユリウスが姿を見せて、まだベッドの端に腰を掛けているルチアの元へやって来た。

「顔色がだいぶよさそうだ」
 
ユリウスの顔を見ただけで、頭痛も気にならなくなる。

「はい。もう元気です。おばあちゃんに会いに行ってもいいですか?」
 
ここではユリウスしか頼む相手がいない。エラやアローラに言っても決定権はユリウスが持っているのだ。直接聞いてしまった方がいい。

「明日、時間を取ろう」

「ユリウスさまが時間を作らなくてもいいんです」
 
ユリウスはまるで見えない壁があるかのような一線を引いたルチアに整った片方の眉を上げて見る。

「なぜ『さま』を付ける? ルチアに付けられたくないな」

「国王だから。わたしなんかが目と目を合わせることも普通ならばできないはずです」

「言ってあるだろう? わたしは君が好きだと」
 
ルチアの大きな目が見開く。

「心が強く惹かれるのは君しかいない。嵐のとき、気が狂いそうなほど心配だった。一刻も早く島へ向かいたかったよ。島に君がいなかったら、少しもそんなことも思わなかっただろう」
 
ユリウスは驚いているルチアを抱きしめる。
 
ルチアが姫であるように願わずにはいられない。

そうなればなんの問題もなくユリウスはルチアを妻に出来るのだ。
 
ルチアはうれしかったが、今は気持ちを出してはいけないと戒める気持ちを強く持つ。

「お茶のご用意ができました」
 
アローラの声で、ルチアはふたりだけではなかったことを思い出す。ユリウスの元から離れると、テーブルに近づいた。

「ユリウスさま、美味しそうな、えっと……タルトですよ」

ここでの言葉はいろいろあって難しい。


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