国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
ユリウスは椅子に腰かけると、タルトを前に瞳を輝かせるルチアを見る。そのとき、既視感がよみがえる。

幼い頃、エレオノーラもこの生クリームがたっぷり乗ったタルトが好きで、こうして一緒に食べたことを思い出す。

「美味しいかい?」

「はい。お城で一番好きな食べ物です」
 
ルチアはフォークを持ち一口食べるとにっこり微笑む。

『うん! お城で一番好きなのっ!』
 
3歳の頃のエレオノーラの声がユリウスの頭に聞こえ、愕然となる。

島での出来事も思い出す。ルチアは緑豆を残した。エレオノーラが一番嫌いな食べ物が緑豆だった。

エラは太ると言ってこのタルトを食べず、緑豆は大好きなようだ。
 
まるっきり真逆で、ルチアの方がエレオノーラのほうに嗜好がそっくりだ。

「やっぱり……君は……」

「えっ?」
 
小首を傾げて見つめるルチアにユリウスはフッと笑みを漏らす。

「まるで三歳の子供のようだな」
 
ユリウスは手を伸ばし、ルチアの唇の端に付いていた生クリームを指の腹で拭う。

「ぁ……」
 
好きな人に優しく汚れを拭われ、顔が熱くなる。

ポッと頬を赤らめたルチアにユリウスは本当ならば舌で舐めとりたかった……そんな淫らな考えを持ってしまい自嘲的な笑みを浮かべた。

「子供のころからこの美味しいタルトを知っていたら、きっと毎日でも食べたいって駄々をこねていたかもしれないです」

「わたしのも食べるといい」
 
ユリウスは自分の皿をルチアの前に置いた。

「いただきます」
 
食欲がなかったのがどこへ行ったのか、ルチアは2個目のタルトを頬張り始めた。


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