国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
彼が部屋に入ると、ルチアは天蓋付きのベッドに横になっていた。ユリウスの姿を見て、驚いた様子で身体を起こす。

こんな遅くに来るとは思っていなかったのだ。

「ユリウスさま……」

「そのままでいい」
 
ベッドから出ようとするルチアを制して、ユリウスは端に腰を掛けた。
 
ユリウスはまだいつものようなドレスシャツにロングコート姿のままだ。星空のような濃紺で、後ろで結ばれたシルバーブロンドの髪がさらに輝いているように見える。

「夜会には出たくないと聞いた」

「わたしには場違いで、作法も知らないから」

「君は場違いではないし、作法は明日の朝から先生をつける。賢い君のことだ。すぐに覚えるだろう」
 
ユリウスの言葉にルチアは表情を硬くして首を横に振る。

「どうしてだ? この部屋に閉じ込められて拗ねているのかい?」

「す、拗ねてなんていません!」
 
ルチアの頬がほんのり赤くなり、ユリウスの口元に笑みが浮かぶ。
 
ユリウスはルチアの手に手を重ねる。

「君が城を抜け出し、いないとわかって、捜しに出れば海に入っていた君をどれだけ心配したことか」

「ユリウスさま……」

「君の行動はわたしの寿命を縮めているんだ」
 
ユリウスはルチアの手を自分の胸に持ってきて、触れさせた。

「早く君をわたしのものにして……わたしの庇護のもとに幸せに暮らさせたい」

「わたしはおばあちゃんのことも心配なんです」

「それはわかっている。君が姫だと認定しても、悪いようにしないつもりでいる。嘘を突き通すエラの両親の方が罪は重い」

「でも、わたしよりエラの方が姫さまに相応しいです」
 
エラの姫様然とした振る舞いは自分には出来ない。生まれながらの姫に思えてくるのだ。

「彼女の方がここで暮らした期間が長いせいだ。ルチア、夜会に出てくれるね?」
 
ユリウスはルチアの光り輝くようなブロンドの髪に、指を差し入れて梳く。
 
ルチアはまだ迷っているようで返事をしてくれない。そこでユリウスは顔を近づけて唇を重ねた。

何度か角度を変えてルチアの甘い唇を堪能したのち、離れると口を開く。

「明日は朝から忙しくなる。もう寝なさい」

「ユリウス……」
 
仕方なくコクッと頷いたルチアの瞳はたった今のキスで潤んでいた。

「おやすみ。ルチア、夢で逢おう」
 
ユリウスはルチアの額に唇をあてると、颯爽とした足取りで部屋を出て行った。



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