国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
ユリウスはきらきら輝く紺碧の海を臨める執務室で、ある調査書を読んでいた。

その調査書とは15年前に海に沈んだ帆船のことが書かれてある。

海に沈んだ帆船には、王弟であった叔父夫妻と3歳の従妹が乗っていた。

彼の小さな従妹はとても愛らしかった。

顎のラインでそろえられたブロンドにサファイアブルーの大きな瞳。

まるで天使のような従妹エレオノーラには、ユリウスでなくともとても可愛がられてた。

従妹のエレオノーラは生まれたときから、ユリウスの許婚だった。

そんな特別だった従妹は本当の天使になってしまった。

帆船は5日ほどかかる友好国である王の生誕70周年の祝いに向かう道中、ひどい嵐に見舞われ深い海の底へ沈んだ。

もう15年も前の悲劇だ。

当時、帆船を回収しようとあらゆる手を尽くしたが、見つからなかった。

生誕70周年の祝いとあって、帆船はかなりの宝石や金・銀、美しい絹の反物などを積んでいた。

海に沈んだ宝石の総額は小さな国の総資産にも匹敵するほどだと調査書に書かれてある。

ユリウスはクルッと椅子を反転させると背もたれに身体を預け、静かな海へ視線を移した。

そこへ執務室の扉が叩かれる。

「入れ」

入って来たのは幼い頃から一緒に過ごしてきたジラルド・モーフィアス。

ユリウスと同じ23歳で、頭が切れ、幼い頃から神童と言われ続けていた彼は次期宰相として勉強中だ。

「またこの調査書を見ていたんですか」

机の上に置かれた調査書にジラルドは目をやると、肩までのまっすぐな黒髪がサラッと揺れる。

ジラルドは背を向けて座っているユリウスに小さくため息を漏らした。

いつもこの調査書を見たあと、数分は海を見ながらユリウスは物思いにふける。

当時ユリウスと同じ八歳だったジラルドも、この悲劇は記憶に深く刻まれている。

帆船が沈んだ海域はかなり深いところで、今まで何度も調査隊を出しているが、見つからずじまいだ。

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