国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ジラルド、その先の島で暮らす者たちがいるだろう?」

「はい。そのように報告されています」

帆船が沈んだと言われる海域の先に小さな島があり、そこで生活している民がいる。彼らは魚のように海を泳ぐと調査書にあった。

「彼らに調査させてみてはどうだろうか?」

ユリウスは椅子を元の位置に戻し、ジラルドの黒い瞳を見つめる。

「海に不慣れな調査隊が潜るよりは彼らのほうが、はるかに効率がいいですね」

ジラルドは妙案だと大きく頷き、ふたたび口を開く。

「沈んだ宝石は一国の総資産に匹敵するほどですので、他国が嗅ぎつけて探さないとも限りません」

沈んだ宝石より、天使になってしまったエレオノーラの痕跡がほしいユリウスだが、ジラルドの考えは違うようだ。

ユリウスはおもむろに立ち上がり、群青色のマントをひるがえし窓辺に立つ。

そこから深い藍色の大海原に視線を向けて考え込む。

ジラルドはユリウスの一歩下がる位置に立つ。

「たしか、あの海域に詳しい男が近衛隊にいたな」

「ジェイデン・バレージ子爵です。西にある島で育った彼なら適任ですね」

ジラルドの提案に、ユリウスは視線を海から動かす。

気性が荒く、肌の色も浅黒い男の顔がユリウスの脳裏に浮かぶ。

「ジラルド、この件はお前に任せる。バレージと共に政務に支障をきたさない程度に動いて欲しい」

「御意」

ユリウスはジラルドに一任すると、この件は頭から離れた。

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