国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「服はわたしので我慢してください。直接身につけるものは新しいものなので、気にしないでください」

アローラが生成りのブラウスと、茶色の長いスカートを差し出す。

「あなたの名前は……?」

「わたしはアローラです」
 
ユリウスが国王だということは隠すように帆船に乗る全員に通達されているため、手短に答える。
 
ルチアはアローラの大き目のブラウスと、スカートを身につけた。

いつもルチアが着る組み合わせのものではあるが、素地やデザインは今まで着たこともない上質なものだ。

「どうぞこちらへ」
 
アローラについて浴室を出て、廊下を少し行った扉を叩いた。

「入れ」
 
中から凛とした声が聞こえてきた。

(あの人……?)

「失礼いたします。娘を連れてきました。娘、この方がアドリアーノ候です」
 
アローラは扉を開けて、丁寧に言った。
 
ここの内装の豪華さといったら、バレージの船とは比較できないほどすごい。

バレージの船でさえ、ルチアには初めて見る豪華なものだった。
 
しかし、この船は一歩室内へ足を踏み入れてポカンと呆気に取られてしまう。

深緑の地に小花があしらった壁、部屋の隅に置かれた艶やかなブラウンの机。

そして、銀色の髪を持つ青年が座っているソファ。どれをとっても優雅で、島暮らしのルチアにとって縁のないものだ。

「座わりなさい。アローラ、熱い紅茶を持ってきてくれ。君の名は?」
 
アローラは深くお辞儀をすると、出て行った。

「わたしは……ルチアといいます」
 
ルチアはおそるおそる彼が座っている対面のソファに腰を下ろす。

「だいぶ唇の色が戻ったようだ」

「アドリアーノさまは……海で溺れていた方ですか?」
 
きつい労働を強いるバレージ近衛隊長はバレージと心の中で呼んでいるルチアだが、目の前の美麗な青年に対しては「さま」づけをしなくてはならないような思いにかられた。

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