国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
たしかにユリウスは海に溺れていたが、ルチアに近づくための作戦だった。

思いがけなくルチアの方が溺れてしまったのだが。

「あぁ……助けてくれてありがとう」

「……わたしを助けてくれた方は……あなたさま……ですよね……?」
 
意識を失う前、腰を抱いてくれた青年は銀色の髪の人だった。

「泳げないのでは……?」

「すまない。泳げるんだ」
 
ユリウスは正直に告白した。

「ひどいわ! 溺れたと思って!」

その途端、ルチアは乱暴にソファから立ち上がったが、急なめまいに襲われ、手を額に置いてうつむく。

その様子にユリウスが向こう側からやってきて、もう一度ルチアを座らせる。
 
そこへ扉が叩かれ、ユリウスの合図ののち、年配の男性が入って来た。

「めまいもあるようだ。しっかり見てくれ」
 
ユリウスは医師の男に指示すると、反対側のソファに腰を下ろす。

「大丈夫です!」
 
島の男たちとは全く身なりの異なるきっちりした服を着た人に、ルチアは怖くなる。

「いや、大丈夫じゃないだろう?」

「お嬢さん、体調を見るだけです。すぐに済みますよ」 

医師はルチアの前でしゃがむと、床に膝をつく。

それからルチアの手首を掴み、脈をとる。対面に座るユリウスは優雅に足と腕を組んで医師の診察を見ている。

脈を測る以外にも、医師は瞳や舌を診る。

「……お嬢さん、身体を酷使しすぎですよ。微熱がありますし……ちゃんと食べていますか? 栄養状態がよくない」

「栄養状態?」
 
医師の話に口を挟んだのはユリウスだ。

「いまどき、栄養状態が悪い人間がいるのか?」

国王としてそれは聞き捨てならなく、ショックが否めない。


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