国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「娘を連れてきました」

「ごくろう。戻っていい」
 
ジラルドが近衛兵に話しているとき、エラはキョロキョロと辺りを見回していたが、甲板に人が立っているのを見るとすぐに頭を下げた。

「顔をあげなさい」
 
ジラルドは彼女の顔をよく見たかった。

8歳の頃の記憶だが、エレオノーラと王弟夫妻の絵は今でも城の謁見室に掛けられてあり、3歳の彼女の顔は覚えている。

目の前に立つ少女はまさにエレオノーラを大きくしたような雰囲気をもっていた。
 
生きておられた? まさか……と、ジラルドは自分の考えを払拭するように首を小さく振る。

「わたしはアドリアーノ候の側近のジラルド。お前の名は?」

「あ、あの……エラです……ルチアは大丈夫ですか……?」
 
深い海の色のシャツに黒いズボンの洗練された姿にエラは一瞬見惚れた。
 
ジラルドは娘の名前が「エレオノーラ」を略した「エラ」だったことに驚く。

「ル、ルチアは……?」
 
もう一度訪ねられ、ジラルドはハッと我に返った。

「……だいぶ熱も下がってきました。といってもまだ戻るには早いと医師は言っていますが」
 
エラは丁寧な口調の男性は初めてで、面と向かって話すのが恥ずかしくなり頬を赤らめる。

そんな様子にジラルドは、ユリウスが彼女を見たらどう思うのか確認したくなった。

「どうぞ、こちらです」
 
ジラルドはエラをルチアが眠る部屋へ案内した。その部屋に向かいながら、豪華な内装に始終驚くエラだ。
 
ジラルドが扉をたたくと中からアローラが出てきた。

「娘に着替えをもって来た」

「たった今眠ったところなのですが……また熱が上がってきたようで……」

その会話をジラルドの後ろで聞いていたエラは、ルチアが大丈夫なのかと不安になる。

「そうですか……エラ、彼女の顔を見ていきますか?」
 
ジラルドが聞くと、うつむく頭がコクッと頷く。


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