国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
「ちゃんと食べられてよかったでございます」

 
アローラがルチアに微笑む。

「ずっと見てられたので、食べなきゃって……」

「こんな風にアドリアーノさまがお世話するのを見るのは初めてですよ。光栄なことですね」

(光栄……たしかにこんなことは今まで生きていて初めてだし、もう二度とないことよね)

「ではわたしも退出させていただきます。お夕食までお休みください」

「はい……本当に迷惑をかけてしまってごめんなさい」
 
一番の迷惑をこうむっているのは世話をしてくれているアローラだろう。ルチアは申し訳なさそうな顔になって謝った。
 
アローラは優しい笑みを浮かべると、部屋を出て行った。

 

その夜、エラは両親を連れて帆船にやって来た。

両親ともブロンドにブルーの瞳で、このふたりの娘だと言われてもおかしいところはまったくない。
 
ユリウスとジラルドを前にして、父親は恐縮したような表情で、母親などは恥ずかしくて顔を上げられないといった風だ。

「エラ、ルチアは目を覚ましているようだ。部屋へ行って付き添ってほしい」
 
ユリウスに言われたエラはアローラに案内され、ルチアの部屋へ行った。
 

「エラ!」
 
扉が開いてエラが姿を見せると、ルチアの顔がほころぶ。

「ルチア! 大丈夫っ!? 心配したよ」
 
ベッドの上に座っているルチアはエラが持って来たグリーンの綿素材の簡素なワンピースに着替えている。

「ごめんね。着替え持ってきてくれてありがとう。明日には戻れそう」

午後にたっぷり眠ったせいか、熱は微熱程度になっていた。

「よかった」

エラは屈託のない笑顔を浮かべる。

「こんな時間に、来て大丈夫だった?」

「あのね、お父さんとお母さんになにか聞きたいことがあるってアドリアーノさまに呼ばれたの。今、上で話をしてる」

「おじさんとおばさんが……?」
 
ルチアもなぜふたりが呼ばれたのか見当もつかなく、綺麗な弧を描いている眉を寄せた。


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