国王陛下は無垢な姫君を甘やかに寵愛する
ルチアは船の先へ歩く。

「アドリアーノさま、さようなら」

「ルチア! 待ってくれ!」

 
ユリウスに微笑むと、ルチアはかなり高さのあるそこから海へと飛び込んだ。ほとんど音のしない着水のあと、静かになった。

ユリウスは暗い海をしばらく見つめていた。

 
ルチアは濡れたままでエラの家に向かった。別れを言うためだ。

「ルチア、泳いだの?」
 
外に出てきたエラは弾んだ声で言う。

「ちょっと泳ぎたくなって。明日行っちゃうでしょ。お別れを言いに来たの」

「うん。ルチア、今までありがとう。街へ来たときには訪ねてきてね」
 
街へ行きたかったエラは、別れよりも新天地の期待で明るい表情だ。

「うん。今度ジョシュと行くね」
 
ルチアも無理に笑みを作る。

「濡れちゃっているから抱きしめられないけど、エラがんばってね。じゃあ。おじさんとおばさんにもよろしく」
 
手を差し出して握手を交わすと、ルチアはそこからトボトボと自宅へ向かった。
 
ユリウスと一緒に行けるエラが羨ましい。けれど、行かないと決心したのは自分だ。
 
家へと向かうルチアの目からとめどなく涙が溢れていた。


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