にゃんとも失せ物捜査課です
 立入禁止区域から少女を連れ出す。

 嫌な奴らから離れられてホッと息をつくと少女の視線が何やら手元に向かっていることに気づいた。

「…あぁ。これ。欲しいのか?」

 手に持っていたのは近くで買った豆大福。

「これ、じいさんからの頼まれ物なんだ。
 だいたい迷子なんだろ?」

 質問しても返事はなく手元の豆大福が入った紙袋に釘付けのまま。

「ったく。まいったな…。
 ………ついて来るか?
 わけてくれるか聞いてやるよ。」

 目をキラキラさせ首を縦に振る迷子らしい少女。

 面倒に巻き込まれたもんだと肩をすくめると頼まれたじいさんの元へと向かった。


 二人はビルの中にあるオフィスのような場所に入っていく。

 その扉には『失せ物捜査課』とある。

 ここは警視庁。

 そして『失せ物捜査課』とは主に失くした物を探す担当の部署。

 遺失物とは異なる単純な失くし物ではない、捜査が必要な物がここの部署に回された。

 捜査が必要な遺失物など滅多にない。
 その為、その他の業務にあたることがほとんどだ。

 つまりは平たく言えば『使えない』と見なされた者たちが寄せ集められた部署。

「おい。じいさん。こいつ迷子。
 豆大福が食べたいみたいでついてきた。」

 噛みついてきた割には大人しくついてきた少女をじいさんに引き渡す。

 じいさんは失せ物捜査課の課長。

 謎が多いこの人を皆、じいさんと呼ぶ。

 ガタイのいい体格。
 白髪と白髭で、その立派な白髭が自慢のようだった。
 よく撫で付けているのを目にする。

「こらこら。ここは迷子窓口じゃないぞ。
 …とこりゃまぁ。みうちゃん。」

 みう?猫か何か…かよ。

 今日も自慢の白髭を撫で付けるじいさんの視線の先は連れてきた少女。
 確かに猫っぽくはある。

 長い髪はサラサラと流れ、腰に届きそうな長さ。
 そして白いワンピースからのぞく手足はただ細いだけではない適度な筋肉のついた特有のしなやかさがあり、それが動物的美しさを兼ね備えているようにも見える。

「なんだ。じいさんの知り合いか。」

「いやいや。偶然…というか必然かの。
 今日からワンちゃんの相方じゃよ。」

「…はぁ?こんなクソガキ………。」

 チラリと視線を向ければ「うぅー」とまた唸り声を上げている。

 類い稀な美しさと言えなくもない少女。
 しかし足は裸足で汚れており、野山を駆け回っている子供を彷彿とさせた。

 クソガキと言われたのが気に入らないのか…。
 贅沢な奴だ。

「28歳じゃよ。」

「はぁ?」

 信じられない驚きの顔をじいさんに向ければ、じいさんは笑みを浮かべ美雨の紹介の言葉を重ねた。

「穂積美雨(ほづみみう)28歳。
 本日付けで失せ物捜査課勤務じゃ。」

「はぁーーー!?」
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