君のことが気になって仕方がない


 練習後。私は中村君と、公園のベンチに並んで座った。


「はぁー、今日の練習キツかったぁ!」


 中村君はホントに疲れた様子で、背もたれにグッタリと寄りかかった。


「お疲れ様。きっとキャプテン、引退するから最後に気合いが入っちゃったんだよ」

「だからっつって、あの練習メニューはキツいですって。更に終わった後の部室の大掃除。何考えてんだっつー話ですよー」

「アハハッ。まぁそうだよねー……あ。やだ、中村君。顔がまだ汚れてる」


 左頬に、部室掃除した時についた煤(すす)汚れが残ってる。


「げっ。マジですか!? 顔洗ったのに、カッコ悪っ!」


 私が指摘すると、中村君は体を真っ直ぐに起こして、慌てて手で拭き出した。

 ぷっ、まだ落ちてないし。


「もう、しょうがないな。私が拭いてあげる。じっとしてて?」

「すみません。お願いします」


 恐縮する中村君に笑いつつ、ハンカチを取り出して汚れを優しく拭き取った。


「よし、取れた…………あ」


 ふと、至近距離で目が合い、ドキッとした。

 うわっ、意識したら恥ずかしくなってきちゃった。


「あ、ありがとうございます」


 中村君もなのか、目が少し泳いでる。

 どうしよ。なんか、空気が変わっちゃったかも。

 ……中村君、最初会った時は可愛い後輩だったのに、

 今は…………

 今、は…………


「あ。中村君」

「は、はい。なんすか?」

「まだ煤がついてる」

「えー、マジすか! どんだけついてんだよー煤のヤツ」

「もう、だから全然拭けてないってば。また拭いてあげる。こっち向いて?」

「あ……はい。お願いします」


 今は……ステキな、私の好きな人。



 拭くように中村君の顔に手を添え、

 そのまま引き寄せて、そうっと唇を重ねた。


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