恋におちて


「…顔が熱い。」

!!!!

だから、さっきっから火照ったままなの!

宥めるように晃さんの親指が頬を撫でる。

「呼んで。」

「……えっ?」

「名前。」

この状態で?

「早く。」

さわさわと頬に感じる感触に意識を持っていかれる。
合わさった視線は縫い止められたかのように
動かすことが出来ない。

「みゆき…」

「………あき…らさん」

人の名前を呼ぶのにこんなに緊張したことはない。

特別なことじゃないのに…
何か特別なモノを言葉にしたような…
胸の痛みは最高潮に達していた。

「出来れば“さん”はいらないんだけど…」

もうこれ以上は無理!!!

私のプチパニックに気づいた晃さんは
頬を包んでいた大きな手を私の頭に乗せ、
それはおいおいね…なんて言いながら
クシャクシャって頭を撫でた。

………だからもういろいろ無理です。

恋愛経験のない私にはすべてが初めてで
どうしたらいいのかわからない。

28にもなって…情けない。

「来週の火曜、10時に迎えに来るよ。」

「はい。」

「遅れるようなら連絡する。」

「わかりました。」

食事を待つ間にお互いのスマホに連絡先を
登録した。

胸の痛みにも、情けない自分にも
もう限界で、私はドアに手をかけた。

「それじゃ…運転気を付けてください。」

「ああ。」

車から降りて、ドアを閉めると助手席側の窓が
開いた。

「おやすみなさい。」

少しかがんで運転席に座る晃さんに声をかける。

「おやすみ。」

晃さんも少し上体をかがめて答えてくれる。

家に入るまで見守るという晃さんと
見送ると言って譲らない私の攻防は
晃さんが折れる形で決着がついた。

小さくなるテールランプを見ながら
少しでも胸の痛みも小さくなることを願った。
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