オフィス・ムーン
思い出が沢山あった。遥も結婚を意識していたんだから、お互いに同じ気持ちだったのになんで歯車が狂ったのかとも思った。
遥は部屋に戻ってから有森に電話をかけようとしたが 気持ちが落ち着かなくてかけられなかった。
何で今更一樹はあいに来たんだろう。忘れられないにしても、時間を置きすぎだ… 別に一樹に未練がある訳じゃないのに一樹と居た時の事を思い出していた。遥はそんな自分に混乱していたし、一樹と別れた時の事を思い出したら有森を好きになって行く事も怖い気がしてきた。
遥の電話が鳴った。
有森だった。
「…もしもし?」
「遥さん、ごめん、さっき財布預けたまんまだった」
「あ。本当だわ。」
「中に部屋の鍵が入ってるから部屋に入れないんだよ。取りに行きたいんだけど…」
「今どこ?」
「遥さんのうちの前」
「え?」
いつからそこにいたのだろうか…一樹と居る所を見たのだろうか?
「上がっておいでよ」
遥は部屋に一樹がいない事を証明したかった。
絶対に有森は一樹といる所を見たに違いない。
「…解った」
前に遥が熱を出した時に有森に送ってもらったから部屋は知ってるはずだ。
有森はどんな顔で私を見るだろうか…
「…有森君せっかく来たんだからお茶でも飲んで行ってよね」
「うん」
遥は有森を部屋にあげた「狭いでしょう?」
「一人暮しならそんなもんだよ」
「有森君のうちは広かったじゃない。」
「僕は最初、お袋と住んでたから…」
 「広くてカッコイイマンションだわ。」有森のマンションは、バリアフリーでベランダも広く綺麗だった。鍵だってオートロックでカード型の電子キーだ。
 「ハイ、財布」
「ありがとう」
「お茶どうぞ。」
「うん」
やっぱり有森の様子がちょっと違う気がする…
「…どうしたの」
恐る恐る聞いてみた。
「…黒のクーペの人とずっと話込んでたから。…ここに居たらどうしようかと思った。」
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