オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
向居はただ人混みを避けているわけじゃない。活気や月並みな観光地が嫌いなわけじゃない。
旅行先を可能な限り、五感で味わいたいんだ。
目、耳、鼻、肌…すべてでその土地を感じたい。楽しみたいんだ。

楽しみたい。
そう思って旅行に向き合う姿勢は、私とまったく同じ。

向居と私、相容れない存在じゃない。むしろ、きっと根っこの部分は同じなんだ。
それを勝手に違うものと決めて敵対視して、今までずっと向居を勝手に遠ざけていたんだな、私。

ずっと私の手を握ってくれている向居の手は、とても温かかった。
今、本当に、初めてというくらい、そのぬくもりに、向居という存在の大きさを感じる。


「東京の桜なんかより、こっちの方がずっとずっと綺麗だろ」


見つめてくる黒い瞳は、私の胸の内を見透かすように冴えて、それでいてひどくやさしかった。


「そうだね」


私は笑顔をこぼした。
作ったのじゃない、初めて向居に見せた心からの親愛の笑顔だった。

もしかしたら、こんなにゆっくり桜を眺めたのは、初めてだったかもしれない。
きっと私は、今日ここで見た景色を絶対に忘れないだろう。

向居の、この手のぬくもりとともに。

…ヘンなの。一緒に眺めている人は恋人でもなければむしろ嫌っていたライバルなのに…。

ライバルと過ごす今この瞬間の鮮やかな記憶は、やがてどんな色合いに変化して私の思い出に残るんだろう。
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