オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「基樹がこの旅行をキャンセルしたのだって、仕方なくだったのよ? 基樹から今朝もお詫びのラインが来たし。私と基樹は今も変わらず腐れ縁なんだから」


繕う自分の言葉がむなしく胸に響く。
基樹との別れは遅かれ早かれ社内に広がる。繕えば繕うほど、知られた時向居に惨めな印象を抱かれてしまうのは分かっていたけれど…今この旅行の間だけは虚勢を張っていたかった。
だって、向居はライバルだもの…。

背中を向けたままでいる向居の表情はわからない。
その背中がすこし苛立っているように感じるのは…気のせい、だよね…。


それから黙々と登っていくと、すぐに丘に出た。


「ここ、俺のおすすめ。どこも紹介していないけど、ここからの一望が、俺は一番いいと思う」


そう言われて眺めた景色に私は言葉を失った。
桜の木々と城下街。
歴史と現代が交雑した街に桃色の雲と見まごう桜が、あちこちで咲き乱れている。まるで絵巻物に描かれているような眺めだ。

風が吹く。
春の日差しを含んだ温かな風が、やさしく頬をなでる。
かすかに香る、甘く爽やかな匂い。
吸い込むと、胸にたくさん詰まっていた怒りとか悲しみとか惨めさとか寂しさとか…ネガティブな感情が押し出されていくような気がした。

なんども吸って吐く。吸っては吐く。
そのたびに、甘く爽やかな桜の香りを含んだ空気が入って、胸が軽くなる。

やっぱり、春はいい。
なにもかもを、一新させてくれる。

そっか。
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