オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
すでにパニック状態だったけれど、昨晩のことはしっかりと思い出した。
泣いていたのを向居に気付かれ、慰められ、そしてみっともなく泣き腫らしてしまったことを…。

目線を自分の身体に向ける。
だ、大丈夫、服は着ている。過ちは…犯していない…。
向居に抱き締められながら、いつの間にか眠ってしまったみたいだ…。

とにかく、起きなくては。
向居が目覚める前に離れなくては…。
と思ったその時、目の前の向居のまぶたがゆっくりと開いた。
吸い込まれるように深い黒い瞳と、それを囲む切れ長の二重が現れるのを息も止まる心地で見つめる私に、向居は形のいい唇の端をかすかに上げた。


「おはよう。よく眠れたか?」


寝起きにしては、はっきりとした声だった。
…もしかして起きていた?

「ええ…」とだけどうにか返す。どうしようもなく恥ずかしくて、顔を合わせられない。
寝顔を見られていたのは私じゃないの。いつから起きてたのよ…。

泣きじゃくったせいで、まぶたがまだ火照って厚ぼったい気がする。
きっとすごい顔だ…。こんな顔を向居はずっと見ていたのだろうか。
こんな、愛おしさに溢れたやさしいまなざしで。

どうしようもなく熱くて、この腕から逃げたかった。けれど向居は起き上がるそぶりなど微塵も見せない。このまま私とまどろむのを楽しみたいみたいに、私の身体をしっかりと腕になじませている。


「酔いは…? 具合、悪くないの?」


私は取り留めのない会話を続ける。
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