オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
さらに強い力で、向居が私を抱き締める。
折れんばかりのその力で、息もできない甘い苦しみを私に与えた後、向居は一言、長い間抱えていたものから解き放たれたかのように囁いた。


「ああ、やっと手に入れた…」


自嘲するように、くすりと笑う。


「この旅行でお前を恒田から奪うって決めたはいいが、すぐに困り果てたよ。意気込んだはいいが、こうも俺のことを嫌っている相手とどう打ち解けるつもりだ、って。行きの新幹線では、お前は泣いてばかりで、とても話しかけられる雰囲気じゃなかったしな」

「見てたのね…」


すこし棘を込めた私の言葉に、向居はすかさず返す。


「悪かったよ、盗み見みたいな真似をして。けど正直、見ていてこっちも辛かったよ。すぐにでも抱き締めに行って『あんな奴は忘れて俺にしろ』って言いたかった」


ストレートな言葉に、向居の想いに染まった私の胸は、甘くうずいてしまう。


「そうこうしているうちに着いて、あっという間にお前を見失ってしまった。俺はなにをやっているんだ、って途方に暮れていたら、偶然にもお前に出会えた。奇跡かと思った」


私も思った。
あの夜、桜の木の下で向居を見た時、一瞬思ったのよ。これは、春夜の古都が魅せた悪戯なんじゃないか、って。
でも、違ったのね。

あの出会いは、運命だったのね…。
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