オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
「その後は必死だった。お前と一緒に旅行をしたくて、あれやこれや言いくるめて」


そんな必死だったんだ…。全然そうは見えなかったけど。
…まぁ、なにか魂胆はあるような気はしていたけれど。


「まんまと向居の思惑にはまっちゃったのね」


向居の胸に頬を当てたまま悪戯っぽく睨み上げると、向居は愛おしげに私を見つめて「ああ」と笑った


「そうだな、まんまとお前は俺の口車に乗ってくれたよ。そして今は、企て通り俺の腕の中。俺だけのものだ…」


私はうっとりとした心地で、落ちてくる唇を迎え入れる。
やわらかい。温かい。甘い、甘い唇。蕩けそう。砂糖菓子にでもなったかのように。
身体の中から溶け落ちるような陶酔に崩れてしまわないよう向居の首に腕を巻き付けると、向居もたくましい腕で私の身体を抱き締める。
そうして、もっと深く熱く、想いを注ぎ込んでくる。

長い長いキスを経て、名残惜しむように離れていった向居の唇から解放され瞼を開けた途端、ギュッと胸が締め付けられた。
見たことのない向居の表情がそこにあった。情欲をにじませた男の顔が。

向居はジャケットの内ポケットからチケットを出した。
それは帰りの乗車券だった。
おもむろに手渡されて見てみれば、向居の名義と私が帰ろうとしていた時間の一個前の時間が記されている。


「どうして…だって時間は決めていなかったって…」

「今夜告白してだめだったら、独りで帰るつもりだった」


そして向居は私の目の前でそのチケットを二つに割いた。


「終わらないからな、都。俺とお前の旅は、この先もずっと続くんだ」


まっすぐに見つめてくる瞳を私もまっすぐ見つめ返し、返事の代わりに、再び落ちてきた向居の唇を受け入れた。

情欲に満ちたその口づけは、もうさっきのようなスマートなものではなかった。
何度も重ね、ついばんでは絡みつき…向居の五年間の想いそのもののように熱く激しいものだった。
そうして私もまた、その熱に溶けるように五感を溺れさせ、身体のすべてで向居だけを求め始める…。

吹きつける潮風は、夜気でますます冷えているけれども、今の私達には心地よいくらいだった。

陽が沈み、宵闇が始まる。

けれども、旅は終わらない。
私と向居の旅は、この夜から始まったのだから。





< 222 / 273 >

この作品をシェア

pagetop