オプションは偽装交際!~大キライ同期とラブ・トラベル!?~
その最初の宿として、今夜の旅館は最適だった。

元は豪商の屋敷だったのを明治時代に改築したもので、江戸時代の建築設計の中に明治時代の様式が混ざりこみ、絶妙な和のレトロさが自慢となっている老舗旅館。

歴史がありすぎて施設全体が老朽化してしまっていたのが難でこれまでピックアップする機会が少なかったけれど、最近大掛かりな改装をしたとのことで、地方紙が紹介したくらいで周知もさほどされていなかったのにもかかわらず、すでに盛況で予約を取れたのもラッキーだった。


「こんな人気旅館に宿泊できるなんて滅多にないな」

「そうでしょ? 旅行サイトはタイムラグがあるから不利だと思って直接宿に予約したんだけど、毎日毎日声色を変えてちがう人間を装うの大変だったんだから」

「さすが軍師。それは執念だな」

「そうよ! なにがなんでも取りたくて必死だったんだから。でも結局とれたのは、リーダーに電話してもらった時だったから、疲れちゃった」


肩を落としてみせる私に、向居は吹き出しそうになるのをこらえている。


「なによ。必死だったんだから笑わないでよ」

「笑ってないよ。いつものように全力投球だな、と感心しただけだ」


って、口元をゆるませて言ったって真実味ゼロだ。
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