ハロー、カムアロングウィズミー!

遠慮がちにこちらに視線を送ってくる妻は、俺の言葉を従順にも待っている。
夜勤明けで疲労が溜まっているにも関わらず、わざわざ俺と過ごすために遠路遥々やって来た妻をこのまま帰すほど、俺も鬼ではない。

「せっかくだから泊まっていくか」

言葉とともに、ゆるくまとめ上げられた髪の下から覗く白い項に誘われるように妻に手を伸ばせば、彼女は安心したように微笑んだ。相変わらず、欲求には素直だ。

「そういえば。お風呂で有坂君の奥さんと一緒になったの。たまたま声を掛けられて、ご主人の仕事が終わるのを待っているって聞いたものだから、うちもです、奇遇ですねって話をしたら…」

とっておきの発表をする時のように、今日の真依子の声は弾んでいた。そんな話に耳を傾けながらも、すっかり気の抜けた俺の視線は後れ毛の下から覗く白い項に釘付けだ。

なるほど、だから有坂の妻は俺にも“ごゆっくり”と言葉を掛けたのか。

妙に納得しながらも、ニコニコと互いの正体が顕わになる過程について話す真依子の口を我慢できずにキスで塞いだ。

「ちょっと、まだ話の途中…」
「後からゆっくり聞く」
「キャッ!…待って、ほら、まだ明るいし」

密かに俺の控え室にこの部屋を用意した旅館の担当者に感謝しながら(もしかすると透が手を回したのかもしれないが)、じたばた暴れる真依子を抱えて、問答無用でベッドまで運ぶ。和室では昼間から妻を押し倒すにも不自由だ。

「ほら!お風呂!私は先に入ったから!あなたもお風呂に入ってゆっくりしてきなさいよ」
「後で入ればいいだろ?……そうだ、今から一緒に入るか?」

はじめに案内されたときに、各部屋に温泉が引いてあるのだと聞いていた。おそらく離れの露天風呂のように広くはないだろうが、二人で入るには十分だろう。

「い、一緒に?!そんなの恥ずかしくて無理に決まってるじゃない!!」
「何が恥ずかしのかまったく理解できない。いつもベッドの中で、もっと……」
「あーーーー!!だから、いちいち言わないでよ!!」

顔をまっ赤にしてこちらを恨めしそうに睨む真依子を前に、すっかりその気になった俺は二人で風呂に入る以外の選択肢を早急に握りつぶした。

「ほら、行くぞ」

ベッドに沈む真依子に手を差し伸べる。
彼女は、ふぅとため息をついてから、渋々その手を取った。

「どうせ、抵抗しても無駄なんでしょ」
「ああ、君もようやく分かってきたようだな」

指先を絡めるようにして繋いだ手を引いて、バスルームへと向かう。

「じゃあ、一緒に行こうか」

予想外だったが、せっかく手に入れた彼女との時間を楽しまない手はない。


───Hello,come along with me!




モーニングコーヒーを飲みながら、早々に有坂夫妻との再会を果たすのは、翌朝の話だ。


【おしまい】

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