ハロー、カムアロングウィズミー!
微笑んだまま、握手を求めようと手を差し出す。
しかし、その手は見事に空を切った。
有坂が突然背後を振り返ったためだ。
「真織、荷物置いたら本館のお風呂に行っておいでよ。俺の仕事が終わるまで、ゆっくりしてきて。で、そこの露天風呂はまた夜に入ろう」
「ちょっと、直!!そんなこと、いちいち言わなくていいから…」
有坂の背中から、赤面しつつひょっこり顔を出した女性は、俺の姿を見るなり驚いた表情のまま固まった。
「た、高柳征太郎っ!?」
が、どうしてココに?と彼女が続ける前に、有坂が飄々と説明を始めた。
「言ってなかったっけ?今日の仕事は、高柳議員との対談だからね。あ、妻の真織です。今日はせっかくの機会なので、プライベートの旅行も兼ねて連れてきてしまいました」
「す、すみませんっ!!有坂真織です」
「……初めまして。お目にかかれてで嬉しいです。素敵な奥様ですね」
話を聞いた限り、どうやら有坂は今晩この離れに泊まる予定のようだ。
心の中では唖然としつつも、表情を崩すことなく言葉を返す。習性というものは、こういう時に役に立つ。
「もうっ、直ってば、そういう肝心なことはちゃんと前もって伝えてっていつも言ってるのに……」
ブツブツ言いながらも嬉しそうに荷物を整理して、「失礼しました~」と頭を下げてから、そそくさと本館へと向かう彼女を有坂と共に見送った。
「結婚してもうすぐ二年経つんですけど、妻が可愛くて仕方ないんですよ」
彼女の背中を見送りながら、有坂は俺に向けて真顔で呟く。恥じらいもなく、まるで当然のことのように。
「本音を言うと、あなたにも会わせたくなかったくらいです」
どうして?という問いは、頭にさえ浮かばなかった。
そんなことは考えるまでもない。俺だって真依子を有坂に会わせたくなかったのだ。だから、あの時も透の提案を迷うことなく却下した。
「だって、前にテレビであなたの記者会見を見たときに、妻はあなたをベタ褒めでしたからね」
ほんの少し悔しそうに言葉を吐き出した有坂を見て、案外男の方が嫉妬深い生き物なのかも知れないと思った。