ハロー、カムアロングウィズミー!
記者とカメラマンの他に一名のスタッフ、旅館側の責任者、そして俺と有坂。
せっかく趣ある温泉旅館だというのに、六名の男ばかりの色気のない空間で、対談は始まった。
この企画は一年分が一冊のビジュアル本にまとめられ、毎年出版されているという。人気企画ゆえに、売り上げも上々らしい。記事を書くだけならば都内で十分なはずなのに、こんな山奥まで呼び出された理由は、出版するにあたって対談の中身以外でも楽しめるようにするためだという。ゆえに、ロケ地(対談場所)にもこだわり、プロのカメラマンによる撮影もあるというわけだ。
「やっぱり和服を用意したほうが、よかったですかね」
「たしかに二人ともスーツでは堅すぎましたかね」
記者が冗談交じりに言ったのを、やんわりと笑顔で返す。
事前に和服の衣装を用意した方がよいか尋ねられたが、自前のスーツで行くと伝えてあった。普段から着慣れている有坂と違って、和服の着こなしには自信がない。そんな俺に有坂も合わせたのだろう。
「もしよろしければ、こちらをお使いください」
おもむろに旅館の支配人が差し出したのは、箱に入れられたネクタイだった。
一つは紺、もう一方は鮮やかな若草色を基調としているが、どちらも似たような縞模様で、この地方伝統の木綿染めのお土産品だという。
支配人に礼を言い、シルクのネクタイを外して、年齢と着ているスーツの色味から考えても、こちらだろうと紺の縞模様を手に取る。
それに有坂も異議はなかったようで、お互いに向かい合ったままネクタイを取り替えた。これで、少しはこの風流な空間に馴染めるだろうか。
「お二人ともお似合いですよ」
「では、始めましょうか」
再び視線を正面に戻せば、こちらをまっすぐに見つめる有坂と視線がぶつかった。
お揃いのネクタイの効果なのか、少しだけ先ほどよりは相手を近くに感じる。
しかし、この後その薄っぺらい親近感など所詮錯覚に過ぎないことを知るのだ。