俺様副社長の溺愛秘書
「残念。」


「陽輝。」



今度こそ、普通に話す陽輝の声に、周りの視線が集まるのを感じた。



「義姉貴なんだね。」


「陽輝。」



絶対に聞かれている。



『やっぱり副社長と?』


『指輪は忘れただけ?大事に家に飾ってあるとか?』


『結婚する噂は本当なんだ。』



陽輝の言葉に反応する社員。


チラリと陽輝と目が合えばニヤリとしている。まさに確信犯だ。



「噂、間違ってないよね?」


「陽輝、早く資料を頂戴。」


「は~い。」



お調子者の陽輝がプリンターへと向かう。その後ろ姿を目で追う。


陽輝の真意は分かりにくい。冗談なのか、本当なのか………。



『奪うの。』



陽輝の言葉が脳裏を過る。



『奪いたかった。』



小さな声で囁かれた言葉に、遠くで資料を確認している陽輝を見つめる。


陽輝の気持ちが掴めない。


もし知っても、私と陽輝は友達以上にはなれない。なら知る必要はない。


席へと戻ってくる陽輝を見つめる。



「朱里さん、お待たせ。」


「うん、ありがとう。仕事を頑張ってね。」



いつものように陽輝に手を振り、私は副社長室へと向かった。
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