空に虹を描くまで
「えーっと、次の授業移動なの。伝言なら伝えようか?」
何かを聞いてくる様子もないように見えたから、わたしから沈黙を破った。
「あ、いや…」
そう言って目を逸らし、右手を頭の後ろに回しばつが悪そうに言葉を続けた。
「このクラスに、井上 佳奈子っている?」
「え?!井上佳奈子はわたしだけど…」
急に名前を呼ばれて驚いた。
もしかして聞き間違いかな、と思い自分の名前を復唱して答えた。
だって、まさか自分だとは思わなかったから。
だけど相手の様子から、探しているのは井上佳奈子で間違いなさそう。
知らない人がわたしに何の用事だろうと思うと、心なしか少しワクワクした。
「このノート井上のんだろ?」
そう言いながら、わたしに見せるように片手でノートを持ち、ゆっくりの教室に足を踏み入れてきた。
「あ!そう!それわたしの!」
その人の左手に握られていたのは、わたしがずっと探していたノートだった。
「え!?嘘!なんで?」
そう言うと、彼はにっこりと優しく微笑んだ。
「よかった」
さっきまでの緊張感が嘘のように、安心したように笑った。
きっと、このノートがわたしのものか半信半疑で持ってきてくれたんだろう。
「ありがとう」
ノートを受け取って、パラパラとページをめくった。
間違いない、わたしのだ。