幼馴染は関係ない
1話
マンションの同じ階に住む、同い年の 上尾竜生(かみおりゅうせい)とは保育園から一緒。
私は、下村花音(しもむらかのん)。

竜生は保育園のときこそ優しい男だったけれど、小学に入学した頃から意地悪な性格になっていった。
・・・きっと気付いたのだと思う。
自分と私とではレベルが違うということを。

竜生は幼い時から背が大きくていつも2~3歳年上に見られる子だった。
頭も良く、それは会話の端々からでも判る。
なんだかんだと私が竜生に迷惑をかけていた幼少期。
だけど、小学入学と同時に竜生は私を目の敵にし出した。
今まで面倒を見せられていたという思いからの反発だったのか、ただ単に幼馴染の私が煩わしかったのか。

どんどん疎遠になった小学高学年の頃。
・・・と言っても竜生とは同じ階に住んでいるのだから、時々用もないのにフラッと家に顔を出してお菓子を要求して来た。
お菓子を食べながら自分の自慢話をして満足して帰っていく竜生を私は心底呆れて見ていた。

その頃、私は恋をした。
同じクラスの男の子だった。
物静かで、勉強ができて、人とのいざこざを嫌い なるべくいがみ合わない様に周りを誘導するような、そんな穏やかな人。
見た目は色素の薄い肌や髪で、まるでハーフの様で美しかった。
何人もその男の子に恋をしていた。
だから、みんなで「カッコイイね~」と言っては盛り上がって居た。
その言葉を聞いていた竜生は、顔を歪めて、
「あのウンチ(運動オンチ)のどこがいいんだよ?」
と言ってきた。
確かにその男の子は運動は苦手で・・・走っている姿は、腕が横に振れてしまって まるでカワイコぶって居る女の子の様だった。
それに比べて竜生は運動までできた。
正に非の打ちどころが無い。という感じ・・・いや、欠点が無いわけでは無い。
こういう自分本位な言動が目につくけれど。
「確かに・・・運動は竜生君の方が上だよね?」
と友達が竜生を持ちあげたりするから、竜生が調子に乗るんだ。

そして、中学に入学すると、好きだった男の子は私立へ入学してしまったので離れ離れ。
だからどうしたという事もないのだけど・・・。
淡い初恋が終わっただけの事。
付き合うとか告白しようとかそんな事すら想像もしていなかった、本当に淡い憧れだったのだから。

竜生が女の子に初めて告白されたのは中学1年の夏休み直前。
そりゃあもう自慢された。
違う小学の子だったけれど、名前だけは聞いたことがあった。
すごく可愛い子がいるって騒がれていたから。
その子に竜生が告白された。
自慢されて、なんだか凄く腹が立った。
「だから? 竜生は凄いよ。そんな可愛い子に告白されてって言って欲しいの?」
私は不機嫌のまま竜生に言った。
すると竜生は満足そうな顔で、
「お前のその悔しそうな顔が見たかったんだよ」
と笑った。
本当に嫌な奴。
それから竜生はその子とずっと付き合っていた。

高校は、竜生と一緒ではなかった。
偏差値が違うのだから当然だ。
なのに、竜生は時々 我が家へ遊びに来た。
「高校に言ったらもっと可愛い子がいた」「そいつに告白されたから付き合うんだ」
彼女よりもっと可愛い子に告白されたからって3年近く付き合ってた彼女をポイと捨てるの!?最低な男。と思った。
「お前は? どうせ彼氏の一人もできてないんだろ?」
と私の事をバカにする。
「彼氏ではないけど・・・デートする相手くらいいるもん!」
私が言うと、心底驚いた顔をして、
「はっ!? どんな奴?」
とくいついてきた。
どうせ私の好きな人の事、バカにする気なんでしょ?
だけど、残念でした。 私の好きな人は竜生よりもずっと上。
「優しくて、カッコイイ人だよ」
「・・・嘘つくなよ」
「嘘じゃないもん」
「じゃあ、写真見せろ」
「今の写真は持ってないけど・・・」
「今のは持ってない? じゃあ何時のなら持ってんだよ?」
「小学のなら・・・」
「はぁ? 同じ小学の奴か?」
「うん」
「誰?」
「中元新(なかもとあらた)君」
「中元ってあの中元?」
「うん」
新君とは、私が小学の時に淡い憧れを抱いた、初恋の人 その人だ。

新君の年の離れたお姉さんが私の担任の楠木先生の奥さんで、楠木先生経由で新君の近況を聞いたのがきっかけ。
「新君とウチのは年が離れてるせいか何でも話をし合う姉弟なんだ。
だから下村花音って名前、前から聞いてたんだ」
「え? 私の話しなんて新君してたんですか?」
「ああ・・・で。 嫌じゃなかったら、新君とまた友達になってくれないか?」
と苦笑していた。
本当は生徒にこんな個人的なお願いするなんておかしいって思っているのだろう。
「新君、元気ですか?」
「ああ、元気だよ。 ●●高校に通ってる」
それは、竜生の通う高校より偏差値の高い高校だった。
ここら辺では一番の進学校。

それから、新君から手紙をもらった。
それは、我が家のポストに郵便物として届いた。

『下村さん へ

お久しぶりです。
突然手紙を送りつけたりしてごめんね。

お義兄さんから下村さんの担任になったと聞いた時は驚きました。
でも、これは僕にとってのチャンスなのかな?と思っています。
中学受験の時、僕は、本当は皆と同じ公立中学に入学したかった。
だけど、親の強いすすめで私立中学へと入学してしまった。

その後、自分だけ違う中学に通うようになって、小学の友達とは疎遠になってしまいました。
自分から皆に会いに行く様な勇気も無く、どんどん月日が流れてしまった。
だけど、下村さん達 小学のクラスメイトの事は忘れたことはありませんでした。
また友達になれないだろうか?
もし、まだ友達だと思ってくれているのなら、連絡をください。
待っています。
   0*0-****-****
   arata****@***.ne.jp
                        中元新』

私は手紙に対してのお礼と『新君に会いたいです』という一言、私のケータイ番号を書いて その日のうちに新君にメールした。
そして、新君から電話をもらって、会う約束をした。

それがもう2ケ月前。
3年ぶりに会った新君は背がスラリと伸びただけで、今でも美しいままだった。
私はまた新君に恋をしてしまったのだ。

そして、私は期待している。
楠木先生のクラスに新君の小学の同級生はなにも私だけでは無い。
なのに、楠木先生が何故 私だけに新君の事を話したのか。
新君と会う様になって2ケ月経っても、他の同級生にも会いたいと言われないのは何故なのか。
・・・それは、新君は、他でもない、私に会いたいと思ってくれたからではないのか?と。
私が何の取り柄もない平凡な人間だって事は嫌って程わかっているのに、私はそんな風に思ってしまっていた。
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