幼馴染は関係ない
10話
何も考えられない状態で私は家に帰った。

「お帰り~ 随分早かったのね?」
と母。
「うん・・・」
「どうしたの? 喧嘩した?」
「ううん・・・」
「花音?」
「・・・」
「花音!?」
「え? あっ何?」
「喧嘩でもしちゃったの?って訊いたの」
「喧嘩なんて・・・」
「そう? 大丈夫?」
「うん、ちょっと驚き過ぎちゃってるだけ」
そう答えて私は部屋に入り、ベッドに転がる。

新君、お嫁さんにしてくれるって。
・・・凄い・・・凄いよね?
この年でそんな事まで言ってくれる彼氏ってだけでも凄いのに。
相手はあの新君。
私ってシンデレラみたいじゃない!?
・・・あ、全然違うか。 シンデレラって境遇が可哀想で身なりが良くないという設定なだけで、結局は本人 美人さん。 その美貌で王子様に見初められるというお話だもの。
魔法使いが魔法をかけるのはドレスやガラスの靴、馬車とかだけだよね?
顔まで魔法でどうにかしたなんて話じゃなかったよね?
・・・私の様な平凡な人物像では絶対無い。
私はシンデレラじゃなくて、ラッキーガールと言ったほうが正しい。

そして、ふとベッドから起き上がる。
昨日、ここで新君と・・・。
きゃーっ思い出しちゃう!!!
昨日の夜も散々思い出しては悶々としてしまって、寝坊してしまったのに。
・・・新君、激しかったな。
っ!? 私、何思い出してるの!?
もう、こんな自分嫌になっちゃう。

次の日、私はバイト。
新君は午前中に北海道に帰る。
寂しいけど、新君から沢山の愛を貰って私はフル充電。
そっと新君から貰ったネックレスに触れて、
「いってらっしゃい。 帰りを待ってるからね」
と呟いた。



それから月日は流れて、今日は私の成人式。
私は数ヵ月後に短大を卒業し、小さな会社の一般事務職に就く。
もうすでに内定をもらっているから、余裕。
新君は北海道の大学に通っていて、あと2年は学生。
こちらに就職をすると約束してくれている。
もしかしたら、その頃にはお父さんが転勤で戻ってこれるかも?という話もあるから、ご両親に反対されることはないだろうと言っていた。
お盆とお正月、あとは1回か2回会えればいい方・・・年に3~4回だけほんの数日だけを二人で過ごす関係も4年近く。 
よく別れないものだと思う。
・・・新君の心変りが無いことが本当に奇跡。
今でも毎日電話がくる。 ほんの数分でも絶対に1日1回は声を聞かせてくれる。
20歳になってからお酒の席へ参加する機会もあるみたいで私は不安に押しつぶされそうになるけれど、新君の「今 帰ったよ」の声で安心する。
良かった、他の女の子と一緒に居ないんだって確かめられるから。
新君は自分を モテない と言う。 それが私を不安にさせない為だってちゃんと分かってる。
だって、あんなカッコイイんだもん、モテない訳が無い。
だけど、新君は本当に真面目だから 浮気なんてできない人なんだろうと信じてる。
・・・信じてるなんて言ってる割にすごく不安になってるなんて矛盾してるけど。
時々、どうして、大学はこっちに帰って来て!と頼まなかったの?と自分で自分を責めたりする。
でも、あの時、新君の事を一番に考えた選択をして欲しいと思った事は間違っていなかったと思っている。
それに、その事で新君のご家族に私は気に入られたと聞いている。
新君のお姉さんとはすっかり仲良くなった。
楠木先生は担任でなくなっても、学校で会えば新君の話をしてくれたし、自宅へも誘ってくれた。 奥さんが「是非また来てほしいって言っていた」と。
だから、高校を卒業してからは、楠木先生の家によく遊びに行かせてもらった。
主に楠木先生が留守の日に。 新君のお姉さんと二人でお話するのはとても楽しかった。
新君の小さな時の写真やかわいいオモシロエピソードをたくさん聞けたから。

短大に入学してからはバイトもした。
前にバイトした喫茶店は年中バイトすることは無理だったので、他のバイト。
そしてそのバイト賃を貯めて、新君が忙しくない時期に時々会いに行った。
新君の自宅に泊まるなんてことはできないから、ホテルを取って・・・だから3泊4日が精一杯。
父には、私が高校2年生のお正月に新君を紹介した。

お盆の時に友達だと嘘をついてしまった事は言えなかったけど、お正月に帰省した新君と会う時、きちんと、「彼氏と会う」と伝えた。
父は驚いていたし嫌そうだったけど、新君が玄関先で挨拶してくれたら機嫌が良かった。
多分、遠距離恋愛というのが良かったのだと思う。
彼氏が遠くに住んでいるなら普段 私が彼氏を家に上げているかも?という疑惑を持たなくてもいいと思ったのだろう。と母が後で言っていた。

新君と会う時、必ず肌を重ねた。
・・・そればかりが目的ではないけれど、その行為も私と新君の愛を深めてくれると思えた。

それに、新君の仕草に違和感を感じないか・・・を確認していた。
もし、他の人を抱いていたら・・・私ではない人との「いつもの行為」が存在していたら、私は違和感を感じるのではないかと思っているから。
・・・でもそれは、新君も同じみたい。
久々に新君を体内に受け入れる行為に私はいつも少し苦痛の顔をしてしまう。
それを新君は嬉しそうに見ているから。
私が他の人に抱かれていないことを確認しているのだと思う。
お互いに相手を信じている。と口では言っていても不安は消せないのだと思う。

新君が帰ってくるまで あと2年・・・。
大丈夫、ちゃんと待っているからね。


新君も今日は北海道で成人式。
私と新君はそれぞれの地で成人式の式典に出席する。
後で、振袖を着た写メを送る約束をしている。
「きっと、綺麗だろうな~ あ~・・・実物が見たかったな~」
と、とても残念そうな新君の台詞に笑ってしまう。
「結納の時にはこの振袖 着るからね?」
と言うと、新君は
「そっか、見る機会あるんだ! 良かった」
と笑った。
それが、何年後になってもずっと私は新君を待っている。
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