幼馴染は関係ない
12話
ドアを見たけど、親が入ってくる気配はない。
大丈夫、きっと聞かれていない。
・・・もし聞かれていても、大丈夫なのかな?
北海道まで遊びに行ってくる。と言っても「気をつけて行ってらっしゃい」と送りだしてくれる両親だもの。

「花音」
新君の優しい声にホッとした。
「うん」
「明日。 そっちに行く」
「え!?」
「これから会う同級生に僕が明日行くって伝えて」
「え?」
「久しぶりに僕がみんなに会いたがってるって」
わざわざ急にこっちに帰るのはみんなに会いたいから?
「私に会いに来てくれるんじゃないの?」
「もちろん花音に会いに行くけど、みんなに花音は僕の彼女だって言いたいし、上尾君とも話がしたい」
恥ずかしい。 イケメン新君と私が付き合っているなんて言ったらみんな驚くよね?
「竜生と何を話すの?」
「僕の彼女をどう思ってるのか」
「何も思ってなんかないよ」
「・・・不安だから。 上尾君が『何とも思って無い』って言ってくれたらそれでいいんだ」
新君は私の事好きなんだ。 だから竜生なんかの存在でさえ不安になる。
争いごとを好まなくて、穏便に物事を進めたいと願っている様な性格の新君が、両親と初めてやりあったのが、大学進学についてだった。
大学をこちらにするか北海道にするかで。
北海道に引っ越す時も抵抗はしたみたいだけど、親と一緒に行くという選択肢しかなかった。
新君がご両親と言い争った時はいつも私の為だったのだと思う。
大学進学の話は結局、私がいつまでも待ってるから大学は北海道で通った方が新君の為じゃないの?と言った事で丸く収まった。
やっぱり新君にとって良い環境は北海道だった訳で・・・私の為に新君は戦ってくれていたんだと知った。
今回も、私の事で新君は竜生と戦おうとしてくれているの?
・・・それって、凄く嬉しい。
竜生と私は本当に何も心配する事なんてないのだけど、新君がそう思ってくれた事が嬉しいと思った。
「本当に明日会えるの?」
「今からじゃJRは無理かな? 明日の飛行機のチケット予約しなくちゃ」
「みんなに言っておくね。 明日楽しみ」
新君は家庭教師のバイトをしている。
急に休んだりしたら迷惑がかかるのに、本当に大丈夫なのかな?と不安になるけど、本人が来ると言いだしたのだ。
きっとなんとかして来るのだろう。

新君はお正月に帰省していた、それからまだ半月も経っていない。
そんな短い期間で再会できるのは初めて。
さっきまで喧嘩していたのに、もうバラ色の世界。

鼻歌を歌いながら化粧直しをして、リビングに顔を出す。
「竜生!?」
ソファーにふんぞり返っている竜生。
「おう、迎えに来てやったぞ」
「竜生君、花音があまり飲まない様に気をつけてやってね?」
と母。
「変な男はいないんだろうな?」
と父。
「大丈夫っすよ。 同級生ばっかだし、俺が傍にいるんだから」
と笑っている竜生。
いやいや、私、竜生に守られなくても大丈夫だし。
「お母さん、お父さん、成人した娘を同級生に監視させるなんて普通しないから!」
私が言うと、
「だって、花音はお酒強くないから心配だし・・・」
と母。
「そうだよ。 酔って何か間違いあったなんて事になったら中元君に顔向けできないじゃないか」
と父。
「は?・・・中元?」
驚いた表情の竜生。
そこはスルーさせてもらって、
「新君、明日こっちに来るって」
と両親に告げる。
「え? この前帰って来たばかりなのにまた来るの? 何かあった?」
不思議そうな顔をする母。
「ううん。 今から中学の同級生と集まるって話したら急に会いたくなったんだって。
だから、みんなを 明日 新君と飲み会しませんか?って誘うつもり」
「花音は二人っきりで会いたいでしょうに、無理して笑って~」
と冷やかす母。
「竜生君は中元君と会うのは久々かな?」
と父が竜生に訊く。
「へ? 中元と? 小学の卒業式以来会ってないけど、は? 花音と中元って連絡とってんの?」
引き攣りながら竜生は言う。
やっぱり、「遊ばれてる」「暇つぶしにされている」って言われちゃうのかな?
「え!? もしかして、未だに言ってないの!?」
と母は驚いている。
「あ~、うん 実は言ってない」
「言ってないって、中元君のことをか?」
と父も驚いている。
「何? 花音と中元なんかあるのか・・・?」
もの凄く険しい表情の竜生。 怖いから!
「私、新君と付き合ってるんだ」
思いきって、4年以上隠していた事実を告げた。
その一言に竜生は固まった。
そりゃあそうだろう。
今まで散々「お前に彼氏なんてできない」とバカにしていた幼馴染に彼氏が居たのだ。
しかも、かっこよくて頭も良くて、性格まで満点な人なんだから。
「いっいつの間に!?」
すごい動揺を見せる竜生に私達は苦笑。
「中元君が北海道に行く前からだから・・・4年以上?」
と母が代弁。
「え? 4年? 私が中元君を紹介されて3年しか経ってないぞ?」
と不機嫌になった父。
1年以上の間、付き合っている事を隠していたとバレてしまった・・・。
「北海道? 中元、北海道にいるのか?」
竜生は今度は真剣な顔。
「うん」
「4年 遠距離か・・・」
「うん」
・・・「遊ばれてる」とか「暇つぶしにされてる」って言いたい?
「なんで隠してた?」
「それは・・・竜生は嫌味言うと思ったし」
「そりゃ、言うだろ? 相手、中元だろ? あのイケメンが本気で花音を相手にするとは思えない」
失礼すぎない? しかも私の両親の前なんですけど!?
でも、両親もそれについては何も言えないみたい。
自分の娘の彼氏が新君というのは確かに出来過ぎだと感じているのだろう。
「でもね、本当に中元君は真面目な子でね? 私達にも挨拶してくれてるし、大学を卒業したらこちらに帰ってくるって言ってるの」
と母は私をフォロー。
「それに、花音が北海道に遊びに行ったら中元君のご両親とも仲良くさせてもらってるらしいんだ」
と父まで。
「北海道に遊びにって・・・いつも一人で行ってたのか?」
「そうだよ?」
何度も北海道に行く私を「北海道マニア」の女友達と旅行している とでも思っていたのだろう。
いちいち私の予定を竜生に教えたりしないけど、母が 私は北海道に遊びに行っていると上尾の小母さんに話してしまうから竜生にもバレバレ。
そんな感じで母が上尾の小母さんに色々話してしまうから、高校生の時にバイトした喫茶店にも結局 竜生は何度か来たし、短大に入学してから始めたバイト先にも竜生は「おう、失敗すんなよ~」なんてチクリと嫌味を言いながら現れた。
時には私のバイト終わりと竜生が店を出るのが一緒になって、一緒に帰って来た事もあるくらいだ。

「じゃあ、お前・・・」
と窺う様な表情になった竜生。 何?
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