幼馴染は関係ない
14話
●上尾竜生:視点


花音に彼氏が居た。
しかも付き合って4年だって・・・。
なんだよそれ・・・。

産まれた時からご近所さん。
仲良くお互いの家を行き来した。
花音はドジで甘えん坊の女の子。
ずっと一緒だと思っていた幼少期。
でもその世界が全てでは無い事を知った。
保育園に入って、男同士で勇ましく遊ぶ事がとても楽しかった。
花音を相手にしているよりずっと。
だから、花音から「竜生、一緒に連れて行って」と頼まれるのが徐々に嫌になった。
ただ走っただけで転んで泣きだす花音。
その花音を連れて一緒に先生の元へ。
俺はまだ、みんなと遊んでいたかったのに・・・と思ったものだ。
それでも花音を放っておけなかった。

小学に入学すると、男女でべったり仲良くしていると冷やかされたりする。
だから俺は花音と距離を取った。
その時の俺は花音が自分の人生に邪魔だと感じていた。
そんな考えが、変わったのは忘れもしない、花音が中元を好きなのだと気付いた時だ。
俺とは全然違うタイプの優しい男に花音が惹かれている事が無性に腹立たしかった。
俺に相手にされないからそういう男を選んでいるのだろうという根拠のない自信。
中元が優しそうに花音に声をかける姿、それを少し頬を染めて嬉しそうにしている花音の姿にイライラする。
だから俺は中元に「花音が迷惑がっている」と言った。
中元は傷ついた表情をしたが、「そうだったんだ・・・」と頷いた。
中元が花音を好きだとは思っていなかった。
誰にでも優しい男だったから、だけど、これ以上花音が中元に惹かれるのは嫌だと思った。
初めての嫉妬だったのだと思う。

中元が中学受験して、俺と花音と同じ学校に入学しない事にほくそ笑んだ。
しかし、花音との関係は仲の悪い幼馴染から脱出できない。
何かきっかけが無いだろうか?と毎日考えた。
そんな時、学校で噂のカワイコちゃんから告白された。
調子に乗った・・・と言われればそうだったのだろう。
俺は、自分がモテるんだ。と花音に知らしめたかった。
そんな男が自分の一番身近な男だなんて自慢だろ?と・・・。
告白された事実を花音に告げると花音は怒っていた。
俺は、それを嫉妬してくれていると勘違いし、花音が「その子じゃなく、私と付き合って」と言ってくれたら万々歳なんだけどな。と思っていたのだ。
だけど、現実はそうはいかなくて、俺は花音に当てつけるみたいにその子と付き合いだした。
付き合うと言っても、休み時間に話をするくらいで、特別何か関係を持った訳じゃない。
高校の進路を決める時、花音と同じ学校へ・・・という考えが頭をよぎったが、それは俺のランクをおとさなければいけない。
本当は花音の方が「竜生と同じ高校に行きたいから勉強教えて」と言ってくれるのを期待していた。

高校に入学して、花音の居ない生活は味気なかった。
そこで、かなり美人の子に告白された。
中学の時から付き合ってきた彼女とは学校が離れていたがハッキリと別れを告げた訳ではなかった。
最近では「竜生君、冷たい」「デートしようよ」とうるさくてウザくなっていた。
だから、他の子から告白されなくても別れようと思っていた。
その時の俺は花音以外の女と肉体関係を持つなんて考えていなかったし・・・。

花音に、また美人に告白されたと告げると、機嫌が悪くなった。
そんな態度に俺は満足する。
花音はきっと素直じゃないだけで、俺の事が好きなんだ・・・だから嫉妬してそんな態度を取るのだと。
中元とデートしていると言ったのだって、俺に嫉妬させたいから言っただけなのだと思った。
確かに花音が中元を好きだった事は知っている。
だけど、それから3年以上経っている。
その3年間、俺は花音をずっと見てきたという自信があった。
花音が中元を想って切なそうにしている姿なんて見たことが無かったから、中元への気持ちはとっくに終わっていると俺は思い込んでいた。

花音も素直じゃないし、俺も素直じゃ無いから、なかなかうまくいかないな・・・なんて思っていた。
主導権は告白された側にある様な気がするから、俺の方から告白なんてしたくは無かった。
あくまでも付き合っていく関係の主導権は俺が持ちたい。

花音からの告白を待って、自分にとって意味の無い恋愛を何度か重ねた。
ただ花音に嫉妬して欲しいが為の恋愛。

どんどん過剰になる彼女とのスキンシップ。
俺は花音以外の女と肉体関係を持つ気が全く無いままではいられなくなった。
思春期の男なんて、みんなそうだと思うけど。
初めて彼女とキスした時、初めて彼女を抱いた時、いつも花音の事が頭をよぎった。
だけど、そういう行為をする度に「花音を抱く時の為の練習」「花音が素直じゃないから悪いんだ」と言い訳をしていた。

花音に会ってしまう確率が高いから俺の家には絶対に彼女を呼ばなかった。
なのに、近くまで来たからとエントランスに来た女友達。
こいつが俺に気があるのは知っていたが、土足で俺の領域を侵して来そうで付き合うのは躊躇われた。
その女友達をなんとか家に上げずに帰ってもらう為、「送るから」とマンションを出ると花音と出くわした。
・・・最悪。と思った。
だけど、俺と女友達の事を切なそうに見つめていた花音の顔を俺は見逃さなかった。
そして、花音はやっぱり俺を好きなのだと確信して有頂天だったんだ。

どんなに月日が経っても花音は俺に告白してこない。
俺達はもう二十歳を超えた。
花音はもうすぐ短大を卒業し、社会人になる。
・・・俺もそろそろマジにならないとヤバいよな?
花音が社会に出たら、大人の男にクラっとするかもしれないし・・・。
間違って酔った勢いで関係を持つとかあったら大変だ。
相手が結婚適齢期であれば、あれよあれよという間に結婚なんて話になられても困る。

そんな風に花音の男性関係を心配はしていた。
だけど、まさか、中元と付き合っていたなんて・・・。
それでも俺は、俺に彼女がいたから中元と付き合った。と花音が言うと思った。
俺に振り向いてもらえないから告白してきた中元に頷いただけなのだと。
だけど、違ったんだ・・・。
花音は中元が好きだから付き合っていた。
遠距離だったから、花音に付き合っている男が居るなんて全然気付けなかった。
毎年 北海道に行く事を確かに 随分北海道好きだな。とは思っていたけど、まさか彼氏に会いに言ってるなんて思いもしていなかった。
俺は、花音はずっと誰とも付き合ったこともないのだと思っていた。

なんておめでたかったのだろう。
花音に「お前なんて彼氏は出来ない」と罵倒しながら、本当に彼氏が居ないか確かめていた。
「お前は暇な休日か?」と馬鹿にしながら、男と会って居ないか確かめていた。
いつもとは行かなくても、時々そうやって確かめていたのに・・・花音に嘘をつかれていたんだ。

花音は中元を小学生の時からずっと好きだと言った。
好きな人とでなければ付き合わないとも言った。
・・・つまり、花音は俺の事なんて一度も好きだと思った事は無いのだと言ったのだ。
マジかよ・・・。

しかも、なんで中元が花音を好きなんだよ!?
花音は好きで無い人とは付き合わないと言い切ったって事は、中元以外に告白されても付き合うつもりが無かったって事だ。
中元が花音を好きにならなければ、花音は今でも一人だったはずなんだ。

他の誰からも告白されたことがない花音のどこに中元は惚れたんだよ!?
俺みたいに産まれた時から一緒で花音のことを放っておけない、ずっと一緒に居るんだってそんな確信めいた気持ちを持った事なんてないだろ?

いや、待て・・・あの中元だろ?
女みたいに綺麗な顔をしたフェミニスト。
女なんて選び放題だよな?
本当に花音は中元の本命なのか?
現地妻じゃないけど、こっちに帰って来た時だけの彼女なんじゃないのか?
花音を都合よく付き合わせているだけなんじゃ?

よし! 花音の目をさまさせてやる!!!
まさか、中元に食われてるなんてこと・・・無いよな?
・・・あの堅物 花音の事だ。
年に数回しか会わない彼氏に抱かれるなんて事は考えられないよな。
花音の処女は俺のものなんだ。
中元なんかにくれてやる訳にはいかない!!!
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