幼馴染は関係ない
22話
「花音のバイトの帰り、何度も迎えに行ったのは俺だ」
迎え? 迎えに来てくれてたの!?
よくバイト先に顔をだしてきていたけど、それは、私がバイトで失敗していたら笑ってやろうという悪戯心なのだと思っていた。

新君が私の顔を覗き込む。
「・・・えっと・・・確かに帰りに一緒になったことは何度も・・・」
「聞いてないけど?」
不機嫌な新君に冷や汗が出てしまう。
「私はたまたまそういう時間帯に竜生が来たと思っていたから・・・」
「花音がそう思っていたのは知ってた・・・俺だって自分から迎えに来たなんて花音に言ってない」
竜生は言う。
「そうなんだ? でも、二人で出掛けたこと無いっていってたよね?」
「本当にバイト先から真っすぐに家に帰ってきてたの。 そりゃあ、少しは話をしたけど、そんな親密な内容は一度も無いよ」
「本当に花音て無防備だね・・・よく何もされずにここまで来たよね?」
新君は少し呆れた調子で言う。
「え? 無防備?」
「上尾君は花音を好きだったんだよ? そういう相手を力ずくでどうにかしようとする人間もこの世の中には居るって解ってる?」
「そんなっ!? 竜生がそんな事するはずないよ!!!」
私は力いっぱい否定する。
すると新君は満足そうな表情になり、
「・・・ね? 上尾君、花音はここまで言っても上尾君を男として見てないって事分かってくれた?」
と竜生に言った。
「っ!?」
「上尾君の事、花音は幼馴染っていうカテゴリで見てるんだよ。 男とか女とかそういうのは考えていないんじゃないかな?」
「・・・」
「男として見てもらえていないって致命的だと思わない?
上尾君は花音に対する対応を間違ったんだよ。 しかも短くない時間が経ってしまった。
もう、挽回することはないんじゃないかな?」
「中元がそう思っただけだろ? 花音は違うかもしれない!」
竜生は本気で私を女性として見てるっていうの?
「私が竜生を好きになる日は来ないよ・・・竜生は、新君が私を好きになる理由が分からないって言ったけど、私も竜生が私を好きだなんて分からない。理解できないもん。
私は好きな人にあんな態度をとれないし、あんな事も言ったりしないから」
いつだって、私を馬鹿にしてきたくせに。
「それでも、俺はお前を守ってきたつもりなんだ・・・これからだって、守ってやれる。
傍に居ない中元よりずっと役に立つはずだ」
竜生の言葉に新君は表情を歪めた。
遠距離の事を言われると何も言えなくなってしまうよね。
「竜生は守ってくれていたのかもしれないけど、私はそう思っていなかったし、かえって、精神的に苦痛を与えられてきたと思う」
「・・・苦痛か・・・」
「そう、いつも私を馬鹿にする様な事を言われたし、その所為で自分に自信が持てない性格になったと思う。 だけど、新君に認めてもらって私は自分を捨てたものじゃないって思えたの」
新君に微笑む。
「新君と離れているのは寂しいって思うけど、それでもお互いを信じていられる今の関係を自慢したいって思う。 竜生にも本気で心から想い合える人が現れるといいなって思うよ」
「俺は・・・花音がいいんだ・・・」
呟く竜生。 いつもの自信に満ちた面影は無い。
「・・・竜生、もしも、小さい時の様に優しいままの竜生だったら、私は竜生に違う感情を持ったのかもしれない。
だけど、そんなもしもを考えたって仕方ないでしょ? 今、私は新君が好きで、新君と付き合っている。
将来は結婚しようと約束もしている。 この人生が、私は最高に幸せなの。 私の人生に竜生が入りこむ隙なんてないんだよ」
「上尾君、僕からお願いがあるんだ。
これからも花音とご近所っていう関係は続くんだろうけど、もう花音と二人で会って欲しくない」
「新君?」
「いくら、花音が上尾君になんの感情も無いって知っていても、上尾君の気持ちを知ってしまったら、彼氏としては二人きりで会って欲しくないって思う。 花音、僕は心が狭いかな?」
新君の言葉にハッとさせられる。
私は今まで新君を裏切っていたんだ・・・。
竜生とは恋愛感情がないから会っていてもいいだろう。と、自分を正当化して、新君には同じ事をして欲しくなくて、自分の行動を黙っていた。
「今まで、竜生との関係を黙っていてごめんなさい・・・。
新君の立場なら、嫌だって思う事 私はたくさんしてきたんだよね・・・許してくれる?」
「もちろん許すよ。 花音が上尾君をなんとも想っていなかったって証明してくれたしね」
「俺は、ずっと間違っていたんだな」
竜生が言う。
「え?」
「花音は素直じゃないって思ってた。 俺の事が好きなくせに何も言えないでって・・・」
・・・本気で言ってるなら、竜生は相当自意識過剰だと思う。
「だけど、もしも花音を大切だって思ってるって、そういう態度をしていたら、俺と花音の関係は変わっていたのかもしれないんだよな・・・」
後悔の色が滲み出た竜生の表情。
竜生が、私を好きだって言ったのは本気なんだ・・・と思った。
嘘みたいな事実。
< 22 / 26 >

この作品をシェア

pagetop