幼馴染は関係ない
5話
私は新君とよく行った喫茶店でバイトすることになっている。
新君が北海道に行ってからも、一人で喫茶店に通った私。
その喫茶店は新君との思い出がたくさんある。 だからついついその喫茶店へ足が向く。

そんなある日、マスターに「夏休みの予定はあるの?」と訊かれて、「お盆のあたりだけ・・・」と答えると、「そう、じゃあ、他の日は? 部活とかで忙しいかな?」とさらに訊かれた。
どうしてそんな事訊くのかな?と思っていると、
「夏休み、バイトしてみない?」
と言ってもらった。
夏はコーヒーゼリーや かき氷等 夏季限定メニューが増える。
人手が必要なのかな?と思った。
・・・そういえば、夏休みや冬休みにはいつも接客してくれるぽっちゃりとしたお姉さんが居なかった事に気づく。
「どうかな? 小学校の長期休みはバイトに来てくれる人が休むんだ」
「はぁ・・・」
「誰でもいいって訳にはいかないから、去年は家内と二人でなんとか切り盛りしたんだけどね。
今年は学生さんのバイトをとってみようか?って話してたんだ」
「はい」
「で、どうかな?」
「どうして、私なんですか?」
「この店を本当に好きでいてくれていると感じるからだよ?」
「え?」
「この店、好きでいてくれてるよね?」
「それはもちろんです! 新君との思い出の場所ですし」
「・・・えっと、新君て、前によく一緒にきてくれていた人かな?」
マスターは苦笑している。
「はい・・・今は北海道に住んでいます」
「北海道!?」
「はい、お父さんの転勤先についていったんです」
「そうかい。 寂しいね」
「でも、ここは新君との思い出がたくさんあるので・・・」
私が少し笑うと、
「今でも連絡とってるんだね?」
とマスターは笑った。
「はい」
「そうかい、いつかまた彼と一緒に来てほしいな」
「じゃあ、お盆に!」
「お盆?」
「お盆には帰ってくるって言ってたんで」
「ああ、じゃあ、予定があるって、彼となんだ?」
「あ・・・はい」
「いいよ? 彼と会う日はバイト休んでも。 だから、是非ここでバイトしてくれないかな?」

それから私は母にバイトの許可をもらった。
「そんな純喫茶みたいな店。 花音が常連だったなんて初耳」
と驚いていたけど。

夏休みになって、私は人生初めてのバイトに出かける。

この喫茶店から大通りに出るとそこには有名チェーン店のコーヒーショップがある。
だから若い人はあまり来ない。
実際、私と新君以外の高校生カップルは見たことがなかった。

「あら!? バイトの子変わったのね?」
という風に声をかけられるより、
「バイトする事にしたの?」や「若くて可愛い常連さん からついに店側の人になったのか~」「君はこの店では有名だったんだよ? 常連はみんな気になってたからね。 そう、花音ちゃんていうのかい。よろしくね?」と言われた。
・・・私と新君は、この店では珍しい若いカップルだった。
そして、最近では二人では無く、一人でしか来なくなったから、何かあったんだろうと常連さんは気になって居たって。
「数年前にもよく来てたカップルがいたけど、その人達はどうしてるかな?」という話をしているのを聞いた時、楠木先生と新君のお姉さんじゃないかな?って思った。

バイトから帰るとマンションの前に竜生が立っていた。
これからデートにでも行くのかな?と思っていると、
「バイト終わったのか?」
と訊かれた。
「うん 6時まで」
「まさか歩きで帰ってきた!?」
「うん。 今日は天気良かったから歩いてみた」
と私が言うと、
「はぁ? 今6時半過ぎてるけど!? 30分以上も歩いてきたのか!?」
「う、うん」
竜生の怒っている様子に私はどうしたらいいの?と困惑してしまう。
「・・・一人で大丈夫なのか?」
もしかして、竜生って私と同じ店でバイトしようとか思ってる?
「あのさ、あの店ってバイトは一人だけなんだけど・・・」
「はぁ?」
「竜生もバイトしようと思ってるんでしょ? 無理だよ?」
「んな訳あるかっ!? なんで、お前と一緒にバイトしたいなんて俺が思うんだよ!? 馬鹿じゃねぇの!?」
「そんな風に言わなくてもいいじゃない。 もう竜生に迷惑かけてばかりの私じゃないんだから!」
今日だって、マスターは「合格」って言ってくれたもん。
「ああ、そうかよ! 何かあっても本当に知らないからな!」
「大丈夫だよ。 マスターも奥さんも優しいし、常連さんも顔見知りでイイ人達ばかりだから」
私が笑うと、竜生は眉の間に皺を寄せて、
「帰り道のことだよ!」
と叫ぶ。
「え?」
「一人じゃ危ないだろ?」
「・・・この時間が? こんなに明るいのに?」
私は空を見上げる。
夏の夕方7時前が危ない?
「せめてバスに乗れ」
と竜生は言った。
「確かにバスなら5分くらいだけど」
「じゃあ、毎日バスに乗って帰ってこい」
「なんで? 全然危なくなんてないもん、歩いたっていいじゃない。 私、そこまで子供じゃない」
迷子にでもなるとでも思ってるの!?
「子供じゃないから危ないって気付いてない時点で危ないんだよ!!!」

竜生がどうしてこんなに怒っていたのか理解できたのは、この会話を母に話した後。
「竜生君、いつも、花音の事 家来扱いしてるな~って笑ってみてたけど、ちゃんと花音を女の子だって認めてくれてるのね?」
と母が言ったから。
「竜生は、女の子だから一人で歩いて帰るのは危ないって言ってくれてたの?」
「そうだと思うけど? でも、まだこんなに明るい時間なのにそう言うって・・・竜生君て結構過保護なお父さんになりそうね?」
・・・つまり、私は同級生なのに竜生からみたら娘扱いって事!?
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