桜祭り!【SS集】
俯いていると、十夜さんに手を取られた。
「そっ、そう、ですね……夕方の雨で少し気温が下がりましたね。一雨ごとに……と、思ったんですけど」
「夜、ですしね。でも、こうしていたら温かいです」
握った私の手を、さらに強く握りしめる。
「こういうのを花冷えって言うんでしょうかね」
瞳をスッと細めてたずねられると、胸がトクンと高鳴った。
「花冷え……綺麗な響きですね。でも、十夜さんが寒いなら……もう片方の手も……」
すでに握っている手はそのままにして、十夜さんに向き合うようにしてもう片方の手も繋ぐ。すると、ふたりで円を作り、今にもお遊戯をはじめそうな格好になってしまった。
「ふっ……凜子さん、なんだか可愛いことになってますけど」
十夜さんは楽しそうにクックッと肩を揺らして笑う。
「えっ、あれ? ごめんなさい、すごく不恰好に……」
これでは、せっかくのいい雰囲気も台無しだ。
さきほどのように片手だけ繋いで横並びに戻ろうとするものの、十夜さんが手を離してくれない。
「あの、十夜さん?」
首を傾げると、両手を握ったまま、クツリと艶っぽい笑みを浮かべた。
「……もういっそのこと、こうしませんか?」
「あっ……」
グイッと力強く手を引かれ、彼の腕の中にすっぽりと収まってしまう。
「っ、と、十夜さん……! ここ、外です……人が……!」
「いませんよ? 夕方の雨で、みなさんお花見を諦めてしまったみたいです」
確かに地面がぬかるんでいるせいか、宴会をしている人はいない。でも……。
「いっ、いますよ。離れたところに、さっきいましたから……!」
散歩をする人や、私たちみたいに見に来ている人は少し離れたところにポツポツといた。
「大丈夫です、暗くて見えませんから」
「い、いえ、ここ、結構明るいんですよ?」
桜を照らす明かりで、私達もきっと周りからはよく見えている。
「すみません、まだ少し寒くって」
耳元に唇を寄せて囁かれる。そんな風に言われると、離れることができない。……それどころか、彼の背中に腕を回してしまう。
「……花冷えっていい言葉ですね」
「っ、な……なんとも言えません……!」
私は冷えるどころか、身体が熱く火照りだすのだった――。
※「恋衣」のカップル
*あとがき*
とにかく夜桜で甘く甘く……というお話。
このふたりはこのまま安定した関係を築いていきそうです。