眠れぬ王子の恋する場所


久遠さんの住むマンションがある最寄駅は、新幹線も乗り入れる大きな駅だった。

たくさんの人が行きかう広い構内に少しだけ戸惑いながら駅を出て、スマホでナビ機能を起動させ、そこに住所を入力する。

すぐに徒歩十分と所要時間が出てきて、その距離にきっといいマンションなんだろうなぁと頭に浮かべながら歩き始めた。

たくさん並ぶオフィスビルの間を抜ける。
三十階はありそうな建物を眺め歩いていくと、そのうちに他のビルとは明らかに敷居の高さが違う建物が目に入った。

他の建物が割とぎゅうぎゅうに建っているのに比べ、悠々と敷地を構えたそこに建つマンションを見て、すぐにああここだなと判断する。

濃いグレイで統一された外壁のマンションはパッと見て二十階以上の高さがあるのがわかった。

建物の周りをぐるっと黄緑色の葉をつけた樹が囲っている。

〝シマトネリコ〟と彫られている銀色のプレートを眺めながら敷地内に足を踏み入れる。

エントランスまで続く通路の両脇に植えられているのも同じ樹のようだった。

白いタイルが敷き詰められている通路をそのまま進むと、外壁をくり抜いたように造られているエントランスの入口が見えた。

自動ドアの前で立ち止まり、少しためらいながら社長にもらったメモを握りしめ、中に入る。

コンシェルジュがいないのを不思議に思うほど立派なエントランスに、緊張を覚えながら、インターホンの前で立ち止まり久遠さんの部屋の番号を押す。

ポーン……と上品な音が聞こえたあと、しばらく待っていると『……入れ』とボソリと言われる。

その、いつも以上に覇気のない声にだいぶ体調悪いのかな……と思いながら、ロック解除された自動ドアを抜けて中に入った。


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