眠れぬ王子の恋する場所


『石坂が来るとうるさいから、今すぐ向かってくれるか? 石坂、久遠の依頼だって聞くと飛びついてくるから』

私が熱を出したとき、石坂さんは案内って形で部屋まできてたけど、あれももしかしたら強引に立候補したのかもしれない。

仕事熱心ならいいけど、もし、玉の輿だとかそういうことを考えているならあまりいい気はしない。
顧客に優越をつけているように思えるから。

……でも、その点で言えば社長もそうか。お金持ってるからって理由で、久遠さんの依頼を優先させてるわけだし。

まぁ、これだけ毎日依頼してくるんだから常連として大事にするのは当然なのかもしれないけれど。

そう考えて……「依頼か……」とぽつりと声が漏れた。

あまりに毎日一緒にいるから、〝仕事〟って意識が薄れつつあるけれど、これは久遠さんが〝オフィス・三ノ宮〟に依頼している仕事だ。

つまり、久遠さんにしたら誰でもいいわけで……そんな当たり前のことを考えると、ここ最近はなぜか胸の奥がムカムカとしてしまい嫌になる。

この間、石坂さんが久遠さんの部屋に行くって名乗りをあげた時から、なんだかおかしい。

これはただの仕事で、久遠さんは依頼人でしかないのに。
きちんと向き合う勇気もないくせに……こんなのはおかしい。

下手に身体の関係になんてなってしまったからダメなんだ。きっと。

名前をつけたくない自分の気持ちにそういいわけをしながら、それから二駅電車に揺られた。



< 102 / 182 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop