眠れぬ王子の恋する場所


私が落ち着いたのを見計らった頃、久遠さんは「コーヒーでも淹れてやる」と言い、私に部屋にあがるようにうながした。

家事なんかなにひとつできなそうな久遠さんがコーヒー……?と、まさか、と疑いながらソファで待っていると、意外にもきちんとしたコーヒーが運ばれてきて目を丸くしてしまった。

白いカップからは、香ばしい匂いが白い湯気とともに立ち上がっていて、その香りにホッとする。

隣にドカッと座った久遠さんが「砂糖とかミルクがいるなら勝手に持ってこい」と言うから「大丈夫です」と答えた。

私とはいえ、客人にそんなことを言う態度に、久遠さんらしいなぁとふっと笑みがこぼれる。

久遠さんの隣は、安心する。遠慮のない態度は、嘘をついていないってわかるから、とても心地いい。
だから、無性に会いたくなったんだろうか。

「コーヒーなんて淹れられたんですね……」
「ひとり暮らししてればそれなりにできる」

ズ……とコーヒーを口にする久遠さんに、「いただきます」と言ってからカップに手を伸ばす。

「そういえば、洗濯物とか溜まってないですよね。……まさか、洗濯機の使い方知ってるんですか?」

あまり家に帰ってきていないって話だし当たり前かもしれないけど、看病のためにここにきた時、服どころかタオルもなにも溜まっていなかったなぁと思い聞く。

久遠さんは片手で持っていたカップをテーブルに置きながら「当たり前だろ」と答えた。



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