眠れぬ王子の恋する場所


「風呂入る前に洗濯機回して、夜の間に浴室乾燥にかけて、必要ならアイロンもかけてる」
「……ちょっと見くびってました。すみません」

てっきり、吉井さん同様、本当に何もできないタイプかと思ってたけど、食べるものとかの健康面以外は意外としっかりしているのかもしれない。

そう思い謝ると、久遠さんは背もたれに背中を預けながら「時間だけはすげーあるからな」とポツリと言った。

その声の響きに、胸を揺さぶられる。

眠れない夜をどれだけひとりで超えてきたのだろう……と考え、切なさでいっぱいになっていると、久遠さんが視線を私に移す。

相変わらず無表情な瞳にドキリと胸を跳ねさせた私に「さっきの話」と久遠さんが話し出した。

「やっぱり、金盗んだのが元彼だったって話。結局、どうまとまったんだ?」
「……え。ああ、えっと」

泣きながらだったし、なにをどこまで話したのかがわからない。

だから、適当にかいつまみながら隆一とのことを説明すると、久遠さんは〝おまえ、馬鹿じゃねーの〟とでも言いたそうな顔をした。

「おまえ、馬鹿じゃねーの」

あ。当たってた。と思いながら「まぁ……結局お金返してもらってないし、否定はできませんけど」とぼそぼそ答えると「そうじゃねーよ」とすぐさま返される。

「そいつ、部屋まで金持ってくって言ってたんだろ?」
「そうですけど……問題ありますか?」

『真琴っ、お金は少しずつでも返すから! 真琴の部屋に持って行くから、必ず……っ』
隆一はたしかにそう言っていた。

ギャンブルにはまって元カノの部屋からお金を盗むような人だし、実際に返してくれるかはわからないけれど。

「そんな危ないヤツが部屋まできて、おまえひとりで対応する気か?」

呆れたような顔で聞く久遠さんに、ああ、心配してくれたのか、と思いながら笑顔で答える。


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