眠れぬ王子の恋する場所
それは寂しいかもしれない……とグッと黙ると、向かいの席で吉井さんが「その前に、順番的に社長が死にますけどね」とボソッとこぼす。
「俺の話はいいんだよ。それに俺は六十までにがっつり金貯めて、高級な老人ホーム入るし。年とってひとりきりとか耐えられない。寂しくて死んじゃうだろ」
「……案外、寂しがり屋ですよね」
そういえば、このオフィスにも社長はいつも一番乗りだ。
三人しかいないとはいえ、一応一番偉いんだから、少しくらい遅れてきたっていいのに。
それもひとりの部屋が寂しいからなんだろうか……と考えていると「とにかくだ」と社長が話を戻す。
「孤独死なんて寂しいだろ。だから、若くて値打ちのあるうちに、ひとりでも多くの金持ちと知り合っておくのは無駄にはならない」
びしっと言い切られても、いまいち腑に落ちない。
だからしかめっ面のまま社長を見ていると、タブレットいじりに戻った吉井さんに「言い出すと聞かないし、諦めて行くのが賢明だと思うけど」と助言をされる。
ちなみにタブレットで遊んでいるわけじゃなくて、掲示板なんかにこの会社の名前を売るための書き込みをしているらしい。
パソコンやインターネットに詳しい吉井さんのおかげで、ホームページもでき、そこからの依頼件数も増えているって話だ。
「俺も、久遠財閥の御曹司とかどんな人なのか興味あるから、明日教えて」
吉井さんに、ちっとも抑揚のない声で言われ、もう受けるしかないのかとため息を落とす。
「これ……この、久遠さんのところに行ったら、私は直帰でいいんですか?」
不貞腐れたような態度で言うと、社長は満足そうに笑い「おう。もちろん」と弾んだ声で言った。