眠れぬ王子の恋する場所
久遠さんとやらが宿泊しているらしいホテルは、オフィスから四駅ほど離れた駅前にあった。
新幹線も止まる、大きな駅の真ん前にどーんと構えているホテル。
高そうだな……と思いながら通りがかったことはあったけど、まさか踏み入れることになるとは考えてもみなかった。
コンクリート色をした壁には、規則正しく窓が並んでいる。
駅前にも関わらず、たっぷりと広さをとったエントランスには、数台のタクシーが止まっていた。
宿泊客を迎えるためかボーイさんが自動ドアの横に立っていて入りにくさを感じ、一度立ち止まる。
……私は、この格好で大丈夫なんだろうか。
今さらそんな疑問が浮かび、自分の格好を確認する。
着ているのは、白い生地に水色の細いラインが入ったシャツワンピース。
ウエストの部分には、白くて細い飾りベルトが巻かれている。足元はくるぶしまでの高さがあるグラディエーターのサンダル。
せめてパンプスでくればよかった……と思うけれど、今更だ。
バッグから取り出した鏡で確認すると、もともと薄いメイクは崩れていなかった。
胸元まで伸びたストレートの髪にもおかしなクセはついていない。
会社を辞めたその足でかけこんだ美容院で染めた髪は、落ち着いた茶色だし問題はないはずだ。
やけになって明るい色にしなくて本当によかった。
よし……と、あまりよくはないけど覚悟を決め、エントランスに向かって歩き出す。
自動ドア前に立つと、ボーイさんが一礼する。
私も軽くそれを返すと、態度や表情から戸惑っているのが伝わったのか「なにかお手伝いすることはありますでしょうか」とニコリとした笑顔で聞かれてしまった。
どっちみち、受付をスルーして部屋に上がってしまっていいのかわからなかったから、助かった思いで説明する。