眠れぬ王子の恋する場所
「やっぱりいるんじゃないですかー。だったら最初から開けて下さいよ」
「……久遠さんから聞いたって、本当に?」
開口一番に聞いた私に、石坂さんはまつ毛がバサバサいっている目をぱちくりとさせたあと、にっと笑みを浮かべた。
「もちろん。嘘つく必要なんてないですし。……ああ、今日、久遠さんが休日出勤だってことも知ってますよー。昨日だって、会食で遅かったのに大変ですよね」
『休日出勤』『会食』
紛れもない事実を石坂さんに言い当てられ、衝撃を受ける。
「なんで……」
意識せずにこぼれた疑問に、「本人に聞いたに決まってるじゃないですかぁ」と明るい声を返され、言葉が出ない。
でも……そうだ。
だって、社長や吉井さんから聞いたわけじゃないなら、あとは久遠さん本人に聞くしかない。
そして、教えてもらったからこそ、今ここにいるわけなんだし……。
別に、久遠さんが誰に自宅を教えようと自由だ。
だけど……久遠さんが〝自宅〟にどれだけの警戒心を持っているかを知っているからこそ、すんなり信じることができなかった。
だって、いつの間にそんな親しくなったんだろう……そう考えて、ハッとする。
石坂さんがつけている香水に気付いて。
昨日、久遠さんがつけていた移り香をどこかで嗅いだことがあるって感じたけれど……あれは、石坂さんだったんだ。
オフィスに来るとき、石坂さんはいつもこの香りをまとっていて、それを吉井さんがうっとうしがっていたことを思い出す。
日曜日の朝だからか、マンションの廊下は静かで物音ひとつしなかった。
私と石坂さんの声だけが静かに響いていた。
……どういう関係なんだろう。
そんな疑問が私の頭の中に浮かんだのと同じタイミングで、石坂さんが話し出す。